人は日々、さまざまな思考の渦にのみ込まれています。
体験した出来事を振り返り、「あのときもっとこうすればよかった」「自分には無理だったんだ」という言葉が頭をめぐることがあるかもしれません。
アメリカのバイロン・ケイティ氏が提唱する「ザ・ワーク」は、そのような苦しみを生み出す考え方を見極め、4つの質問によって解きほぐす方法です。
バイロン・ケイティ氏は長期間にわたり、深刻なうつや「広場恐怖症」に悩んだと語っています。
外出はおろか、ベッドから起き上がることさえ困難なほどの不安にとらわれ、部屋に閉じこもる日々が10年以上も続いたそうです。
極限状態の中、家族の勧めでハーフウェイハウスという支援施設に入ると、屋根裏で暮らすよう提案されました。
ある日、床に寝ていたところ、足をゴキブリが這いまわる感覚を覚えました。
その瞬間に「自分」という感覚がどのように生まれ、物事を名前でとらえ、苦しみを育てているかを見抜いたといいます。
この体験を経てバイロン・ケイティ氏は、人々が抱える「苦しみ」に注目し、4つの質問を行うことで思考を再検討できると提案しました。
その4つの質問とは、
- 「それは真実か?」
- 「絶対にそうだと言い切れるか?」
- 「その思考を信じるとき、どのように反応するか?」
- 「その思考がなければ、どのような状態か?」
というものです。一見簡単そうに見えますが、実際に行うと深い内省を促す特徴があります。
たとえば「自分は決してうまくやれない」という思いに苦しんでいるとします。
まず「それは本当に真実なのか」を静かに考え、さらに「絶対に間違いなく真実なのか」を吟味します。
すると「そう思い込んでいるだけかもしれない」という気づきがあるかもしれません。
そして「この思いを信じるとき、気持ちが落ちこみ、行動力が落ちてしまう」と客観的に見ると、自分がどのように行動を制限しているのかがはっきりします。
最後に「この考え自体がなかったら、もっと自由に行動できるのではないか」と想像すると、新たな視点が生まれやすくなります。
バイロン・ケイティ氏の証言によると、この問いかけのプロセスが日常生活に新鮮さをもたらすといいます。
例えば、外出しようとする自分に対して家族が投げかけた「どこに行くの?」という何気ない言葉も、彼女にとっては「自分は今どこに向かおうとしているのだろう」という新しい視点を得る機会になったそうです。
その後は砂漠で静かに過ごし、風や自然と向き合う中で、人や物事を愛情をもって見つめる姿勢が芽生えました。
バイロン・ケイティ氏は「苦しみは選択肢のようなもの」とも述べています。
自分の思考を疑う勇気があるとき、人間は少しずつ視野を広げ、新しい行動をとれるようになるのかもしれません。
日々の暮らしのなかで、考え方を4つの質問に当てはめてみると、目の前の景色が違って見える可能性があります。
自分の内面の仕組みに意識を向けることは、やや気恥ずかしさや面倒に思えるかもしれません。
しかし、その地道な作業が苦しみを軽減し、思考の地図を書き直す力を身につけることは、ひとつの大きな可能性だといえます。
