糖尿病を患っている方の足首と上腕の血圧の比(ABI)を長期間にわたって測定し、その変化が腎臓の機能低下とどのように関係するかを調べた研究結果が報告されました。今回は、その研究で明らかになった結果について、ご紹介します。
慢性腎臓病(CKD)は、世界人口の約10%が罹患していると推定されています。特に2型糖尿病を患っている方は、糖尿病単独の場合よりもはるかに高い割合で腎臓の機能が悪化します。このCKDの進行を防ぐための簡便な予測指標の一つとして、足首の血圧と上腕の血圧の比である「ABI」が近年注目を集めています。ABIが低い場合は、足の血管が狭くなっている「末梢動脈疾患」が疑われ、高い場合は動脈硬化に伴う血管壁の石灰化などが推定されます。ABIの値を長期間にわたって追跡することで、腎機能低下のリスク評価につなげようとしたのが今回の研究です。
研究方法
対象は、アメリカで行われたLook AHEAD試験に参加した2型糖尿病で体格指数(BMI)が高め(過体重または肥満)の方3,631名です。ベースライン時点で腎臓の働きを示す数値(推算糸球体ろ過量:eGFR)が60mL/min/1.73m^2を超え、最初の4年間に年1回のABI測定を受けた人が解析対象となりました。平均追跡期間は約10.1年です。ABIは足首と上腕の収縮期血圧を用いて年ごとに計測し、それを平均化した「平均ABI」と、最初の4年間でどのように変化したかを示す「年平均変化量」に注目しました。そして、腎臓の働きが60mL/min/1.73m^2未満に低下し、かつベースラインから30%以上悪化した場合や腎代替療法が必要になった場合などを「CKDの進行」と定義しました。
研究結果
追跡の結果、約28.9%(1,051名)がCKDの進行を経験しました。ABIとCKDの関係を統計モデルで調べると、「逆向きのJ字形」という興味深いパターンが見いだされました。具体的には、平均ABIがおよそ1.17を下回る領域では、ABIが低いほどCKD進行リスクが上昇しました。一方で、1.17を超える領域では、逆にABIが高いほどCKD進行リスクが増加しました。

また、時間の経過に伴ってABIが減少しすぎる場合だけでなく、増加しすぎる場合でもCKDの進行が多いことが示されています。たとえば、年平均変化量が−0.007より低いほど、ABIが1SD(標準偏差)下がるたびにCKDの進行リスクが1.37倍(95%信頼区間1.12-1.66)に高まる一方、年平均変化量が−0.007以上では、ABIが上昇するほどリスクが1.13倍(1.03-1.24)になるとのことです。

考察
つまり、ABIが基準値内でも「やや低い」「やや高い」という両方向への偏りが、腎臓の機能低下を招くリスクになりうる可能性があります。糖尿病では動脈硬化と血管の石灰化が同時進行しやすいため、ABIが低すぎても高すぎても注意が必要と考えられます。ABIは測定が比較的容易なので、糖尿病の管理において、定期的に足首と上腕の血圧比をチェックし、その変化を追う意義は高いといえそうです。
結論
ABIを長期間にわたって観察することで、2型糖尿病でBMIの高い方のCKDリスクをより詳細に評価できる可能性が示されました。年に1回のABI測定を続け、少しずつでも値の変化を見守ることで、CKDの進行リスクを早期に把握しやすくなります。糖尿病の管理において、血糖値や血圧だけでなく、ABIの変化にも目を向けることが、将来的な腎臓の保護につながるかもしれません。
ABI検査を受けるには?
ABI検査は、多くの病院やクリニックで受けることができます。かかりつけ医に相談するか、近くの医療機関に問い合わせてみましょう。
日常生活でABIの値を改善するには?
* バランスの取れた食事を心がけましょう。
* 適度な運動を習慣にしましょう。
* 禁煙しましょう。
* ストレスを溜めないようにしましょう。
* 定期的に健康診断を受けましょう。
参考文献:
Liu M, Zhang Y, Zhang Y, et al. Longitudinal Patterns of Ankle-Brachial Index and Their Association With Progression of CKD in Patients With Type 2 Diabetes and Elevated Body Mass Index. Am J Kidney Dis. 2025;85(1):36-44.e1. doi:10.1053/j.ajkd.2024.06.024
