慢性腎疾患(CKD)を抱える人にとって、血圧管理は健康維持の要です。しかし、近年、従来の血圧目標値を見直す動きが出てきています。従来は「140mmHg未満」を目標としていましたが、近年発表された研究では、「120mmHg未満」を目指す集中的な管理の効果とリスクが検証されました。その結果は、CKD患者の血圧管理に新たな視点をもたらすものとなっています。
CKDと高血圧は密接な関係にあります。日本では推計1,300万人以上がCKDを有するとされており(日本腎臓学会調べ)、その予備軍を含めるとさらに多くの方が腎機能の低下に直面しています。腎臓は血液をろ過し老廃物を排出する役割を担っていますが、高血圧が持続すると腎臓に過度の負担がかかりやすくなることが指摘されています。そのため、適切な血圧管理はCKD患者にとって非常に重要です。
今回注目された研究は、アメリカ退役軍人健康局(VHA)と南カリフォルニアのカイザーパーマネンテ(Kaiser Permanente Southern California、KPSC)という2つの医療システムから得られた99,921人のCKD患者のデータを分析したものです。この研究では、集中的な血圧管理(120mmHg未満)を行うことで、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)の発生率が低下することが示されました。VHAでは4年間で5.1%、KPSCでは3.0%の低下が見られました。また、死亡リスクもVHAで2.8%、KPSCで2.3%ほど低下しました。これらの結果は、より厳密に血圧を管理することで、CKD患者の心血管系に良い影響が得られる可能性を示唆しています。
しかし、集中的な血圧管理はリスクも伴うことが明らかになりました。集中的な管理を受けた群では、有害事象(副作用)の発生率が増加しました。VHAでは1.3%、KPSCでは3.1%の増加が見られました。主な有害事象としては、低血圧によるめまいや転倒、急性腎障害などが挙げられます。特に、eGFR(推算糸球体ろ過量)が30未満の重度CKD患者では、急性冠症候群や認知機能障害のリスクが高まる可能性が示されています。つまり、一律に「120mmHg未満」を目標とするアプローチは、必ずしもすべてのCKD患者に最適とは限らないということです。
個別化治療が鍵
CKD患者一人ひとりの状態に合わせて、治療方針を決定することが重要です。研究データによると、心血管イベントを1件防ぐためには約20人が厳密な血圧管理を受ける必要がありますが、同時に1人が有害事象を経験する可能性もあります。医師と患者がこれらの情報を共有し、患者が受け取る利益とリスクのバランスを考慮しながら、目標とする血圧値を決定していくことが望ましいと考えられます。
結論として、CKD患者にとって厳密な血圧管理は多くの恩恵をもたらす一方、リスクも含む選択肢であるといえます。腎機能や年齢、併存症の有無など、個々の状況に合わせた治療計画が重要です。血圧を「120mmHg未満」にするかどうかは、患者ごとに慎重に判断する必要があります。専門医に相談することで、より安全かつ効果的なアプローチを見つけることができるでしょう。血圧管理を徹底することで、CKDと上手に付き合いながら健康を保つ道が開けるかもしれません。
参考文献:
Kurella Tamura M, Huang M, An J, et al. SPRINT Treatment Among Adults With Chronic Kidney Disease From 2 Large Health Care Systems. JAMA Netw Open. 2025;8(1):e2453458. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.53458
