骨粗鬆症は高齢者や慢性腎疾患を抱える方にとって重要な健康課題です。中でも透析を受ける患者は、一般の方よりも4倍以上骨折リスクが高いと報告されています。ところが、透析患者における骨粗鬆症の最適な治療法は十分に研究されてきませんでした。今回取り上げる研究では、骨粗鬆症治療によく用いられる「デノスマブ」と「ビスホスホネート」の効果と安全性を、透析患者で比較しています。
それぞれの薬剤の特徴
– デノスマブ
破骨細胞(骨を壊す細胞)の働きを抑えて骨折リスクを下げます。腎臓での排泄にあまり依存しないため、腎機能が低下している患者でも使用しやすいと考えられています。
– ビスホスホネート
骨を強くする効果があり、長年にわたって広く使われている治療薬です。ただし、一部で腎機能への負担が心配される場合があります。
研究の方法
日本国内の透析患者1,032人を対象に行われました。対象は50歳以上の骨粗鬆症患者で、2つの群(デノスマブ群とビスホスホネート群)に分かれ、3年間にわたって治療効果や安全性を比較しました。特に、骨折リスクと心血管リスク(MACE:心筋梗塞、脳卒中、心不全など)に注目しています。
研究の結果
– 骨折リスク
– デノスマブ群:5.7%が骨折
– ビスホスホネート群:11.7%が骨折
– デノスマブはビスホスホネートに比べて骨折リスクを約45%低減
– 心血管イベント(MACE)
– デノスマブ群:34.6%が発症
– ビスホスホネート群:21.0%が発症
– デノスマブはMACEリスクを約36%増加させる可能性
治療選択の難しさ
透析患者はもともと心血管疾患のリスクが高いため、骨折リスクを減らすメリットと心血管リスク上昇の可能性を慎重に天秤にかける必要があります。研究者らは「骨折予防の効果が高い一方で、心血管リスクが高まる可能性がある」という事実を踏まえ、患者一人ひとりの背景や合併症を考慮したうえでの薬剤選択が重要だと指摘しています。
私たちが学べること
骨粗鬆症の治療は、骨の健康だけでなく全身への影響を考慮する必要があります。特に透析患者の場合、心臓への負担が大きいことを踏まえたうえで、骨折予防と心血管リスクのバランスを十分検討することが大切です。今回の研究は課題も残っていますが、透析患者やその家族、医療従事者に貴重な指針を提供しています。
今後、さらに大規模で長期的な研究が進み、透析患者にとって最適な治療法がより明確になることが期待されています。骨と心臓を同時に守れる治療が確立されれば、多くの患者にとって大きな安心材料となるでしょう。
参考文献:
Masuda S, Fukasawa T, Matsuda S, Kawakami K. Cardiovascular Safety and Fracture Prevention Effectiveness of Denosumab Versus Oral Bisphosphonates in Patients Receiving Dialysis : A Target Trial Emulation. Ann Intern Med. Published online January 7, 2025. doi:10.7326/ANNALS-24-03237