ユージン・バーガー氏(1939年6月1日生まれ)は、アメリカ・シカゴ出身のプロマジシャンで、クロースアップ・マジックの名手として知られています。幼少期からマジックに興味を持ち、名人と称されたドン・アラン氏に師事しました。マジシャンとして異色なのは、彼が大学で哲学と比較宗教学を教える講師としての経歴も持ち、イェール大学で神学と哲学の修士号を取得していることです。その後、シカゴ市役所勤務を経て、1978年にプロマジシャンとしての道を歩み始めました。
バーガー氏は繰り返し語っていました。「マジックは単なる技術やトリックだけではなく、観客との感情的なつながりを築くアートである」と。彼の考え方は、マジックを単なる娯楽から、より深い意味を持つ芸術へと引き上げるものでした。
バーガー氏のマジックは、古典的なトリックに独自の演出を加えることで、観客に新鮮な驚きを提供するスタイルが特徴です。彼の演技は、シンプルでありながら観客の心を掴んで離さない不思議な魅力があり、観客との深い絆を生み出すことに長けていました。その風貌は、豊かなひげと落ち着いた雰囲気で、まるでユダヤ教のラビのような風貌でした。
彼の代表的な著書には、『Secrets and Mysteries for the Close-Up Entertainer』(1982年)、『Intimate Power』(1983年)、『Spirit Theater』(1986年)、『Performance of Close-Up Magic』(1987年)などがあります。これらの作品では、マジックの技法だけでなく、演出論やマジシャンとしての哲学も詳しく解説されています。
バーガー氏は、アカデミー・オブ・マジカルアーツ(マジック・キャッスルの母体)から年間最優秀クロースアップ・マジシャンを2度受賞(1996年、1997年)し、1999年には奇術専門誌『MAGIC』から「20世紀において世界中に大きな影響を与えたマジシャン100傑」の一人にも選ばれました。
2017年8月8日、バーガー氏は末期がんのため78歳で亡くなりました。彼の死はマジック界にとって大きな損失であり、多くのマジシャンやファンから惜しまれました。
現在、私は最近邦訳された『マジックと意味』を読んでいます。この本は、バーガー氏とロバート・E・ニール氏の共著で、マジックの深層に迫る内容となっています。この書籍では、マジックが人間の生命や精神と深くつながってきたことが、数々の事例を基に示されています。また、観客の心に届くマジックを演じるための具体的な手法や哲学が解説されており、初心者から専門家まで、新たな視界を開く一冊だと思います。
ネット上の書評を拝見すると、手妻師の藤山新太郎氏は自身のブログで、バーガー氏がマジシャンの自己否定的な発言が観客の夢を壊すことを嘆いている点に共感し、マジシャンとしての在り方を考えさせられると述べています。
彼の著書や映像作品は、マジックを学ぶ者にとって貴重な教材で、彼の遺した知識と哲学は、現在でも多くのマジシャンにとって重要な指針となるものと思います。