日本全国で実施された特定健診の大規模データを用いた興味深い調査結果があります。2008年から2011年の間に受診した20万3280人を対象に、4年間の追跡調査を行ったところ、何らかの原因で2819人の方が亡くなりました。
ここでは、貧血と慢性腎臓病(CKD)の関係、そして貧血のタイプが死亡率にどのように影響するかを探る試みが行われています。
貧血といっても実はいくつか種類があります。赤血球の大きさを示すMCVという検査値を使い、大きめの「大球性貧血」、標準サイズの「正球性貧血」、小さめの「小球性貧血」の3種類に分けました。その結果、調査参加者全体のうち約2.3%に当たる4611人が大球性貧血でした。正球性や小球性に比べると割合は少ない印象ですが、腎機能が低下すると正球性・大球性の貧血が増え、小球性はむしろ減少する傾向が見られたのです。
さらに、多変量解析という詳しい統計手法で死亡率を調べると、大球性貧血は全死亡(2819人中)やがん死(1595人中)だけでなく、心血管疾患による死亡(523人中)との関連も大きかったことがわかりました。とりわけCKDを伴う大球性貧血の方は、他の貧血タイプより死亡リスクが高いという結果が得られました。CKDとは、推算糸球体濾過量が60 mL/min/1.73m^2未満または尿蛋白が陽性と定義される疾患で、腎機能が低下するため貧血も起こりやすくなります。しかし、ここで大球性の特徴をもつと、さらにリスクが高まるというのです。
なぜ大球性とCKDが組み合わさると危険度が増すのか、その根本的な原因までは本研究では解明されていません。ただし、ビタミンB12や葉酸の不足、過度のアルコール摂取、慢性的な炎症など、さまざまな要因が関係している可能性が指摘されています。腎臓病の方は赤血球をつくるホルモンであるエリスロポエチンが減少しやすいことも、貧血を促進する一因となります。
興味深いのは、貧血のタイプを分析に加えると、ただCKDがあるかどうかだけをみるよりも死亡リスクの予測が正確になるという点です。つまり、赤血球のサイズという、血液検査で簡単にわかる項目が、将来的な健康リスクを見極める追加の手がかりとなり得るのです。これは高齢者人口が増える中で、貧血や腎臓病の早期発見は生活の質を保つうえでも重要です。この研究は、大球性の赤血球を見逃さないことが、よりきめ細かなケアに繋がる可能性を示唆しています。
日常生活では、採血の数値を細かく気にするのは面倒だと感じるかもしれません。しかし、ほんのわずかな数値の変化が将来の健康に響くかもしれないと考えると、検査結果を見る目も変わりそうです。この研究は赤血球のサイズが微妙に変わる背景に、体全体の状態が映し出されるかもしれないと示唆しています。命や生活の質を左右する要因は多岐にわたりますが、大きめの赤血球とCKDの組み合わせを一つの指標として意識することは、健康管理において有用だといえそうです。研究者たちは、より多くのデータを重ねることで、将来の医療の質を向上させようと取り組んでいます。社会全体で健康を保ち、長生きを目指すためには、貧血のタイプについて理解を深めることが重要と言えるでしょう。
参考文献:
Otaki, Y., Watanabe, T., Konta, T. et al. Macrocytic anemia, kidney dysfunction, and mortality in general population: Japan specific health checkup study. Sci Rep 14, 32005 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-83547-5