慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の機能が徐々に低下し、体内の老廃物を十分に排出できなくなる疾患です。近年、患者数が増加傾向にあり、国民の健康を脅かす深刻な問題となっています。実はCKDの方は、心臓病や脳卒中などの心血管疾患のリスクが高いことが知られており、その予防策の一つとして「スタチン」というコレステロール低下薬の使用が推奨されています。
しかし、アメリカの国民健康・栄養調査(NHANES)のデータを用いた研究によると、CKD患者さんに対するスタチンの使用状況は、ガイドラインで推奨されているほどには広がっていない現状が明らかになりました。
この研究では、50歳以上で心血管疾患の既往がないCKD患者さんを対象に、2001~2002年から2017~2020年までのスタチン使用率を分析しました。その結果、2001~2002年の約18.6%から2007~2008年には36.1%に倍増し、2013年ごろには40%前後にまで増加したものの、その後はほぼ横ばい状態が続いていることが分かりました。75歳以上の方では13.4%から47.7%へとより大きく増加していましたが、いずれにしても半数以上の方がスタチンを使用していない状況です。
なぜスタチン使用率は伸び悩んでいるのでしょうか?この研究はアメリカの事情を反映しているのですが、考えられる理由の一つに、保険の問題があります。研究では、保険に加入している方のスタチン使用率が、無保険の方より約2.48倍高いという結果が示されています。また、CKDに高血圧や糖尿病を合併している場合はスタチン処方を受けやすく、高血圧を合併している場合は1.49倍、糖尿病を合併している場合は1.71倍の比率で使用率が上昇することも明らかになりました。一方、人種や性別による差は顕著ではなく、経済状況や合併症の有無といった要因がスタチン使用に大きく影響しているようです。
その他にも、スタチン使用率の低迷には、患者側の要因と医師側の要因が考えられます。
患者側の要因
* スタチンの効果や副作用に関する知識不足
* 薬剤費用の負担
* 副作用に対する不安
医師側の要因:
* 多忙によるガイドラインの未把握
* 複数のガイドラインの混在による混乱
* 副作用を懸念した処方への躊躇
CKDとスタチンが注目される理由は、CKD患者さんが心血管疾患を起こすリスクが高いことにあります。CKDは心臓病や脳卒中などを引き起こすリスクを高め、心血管疾患がCKD患者の死因の多くを占めるという報告もあります。スタチンは悪玉コレステロールを低下させることで、これらのリスクを抑制する効果が期待できます。2013年にKDIGOガイドラインが「50歳以上のCKD患者さんにはスタチンを推奨」と明言したにもかかわらず、使用率が伸び悩んでいる現状は深刻です。
CKD患者さんが将来の心血管リスクを下げるためには、医師とよく相談し、スタチンを含む治療選択肢を検討することが重要です。腎臓だけでなく心臓や血管の健康にも目を向けることが、CKD患者さんがより長く快適に暮らす秘訣と言えるでしょう。
今回の研究結果はアメリカのデータですが、日本でもCKD患者さんは少なくありません。もし健康診断などで「腎臓が少し悪いですね」と言われたら、コレステロール管理も含めた予防策について、早めに医師に相談することをお勧めします。より多くのCKD患者さんに適切な治療と情報が行き渡り、心臓や血管のトラブルから解放される道が開けることを期待したいところです。
参考文献:
Iyalomhe OE, Don Nalin Samandika Saparamadu AA, Alexander GC. Use of Statins for Primary Prevention Among Individuals with CKD in the United States: A Cross-Sectional, Time-Trend Analysis. Am J Kidney Dis. Published online December 30, 2024. doi:10.1053/j.ajkd.2024.11.003
