街中を歩いていると、自分よりも速いペースで歩く人を見ることがあります。「歩く速さ」なんて単なる個性の一部と思われがちですが、実は健康状態と深く関わっていることが明らかになっています。特に、肥満を抱える人々にとって重要なヒントを与えてくれるかもしれません。
ある研究では、日本国内の健康診断データを用いて、肥満と代謝性疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症)の関係を調査しました。この研究では、約35,000人の40歳から74歳の男女が対象となり、彼らの主観的な歩行速度と健康状態が分析されました。「あなたの歩行速度は同年代の同性と比べて速いですか?」というシンプルな質問に「はい」と答えた人は「速い歩行者」とされました。
結果は、日常的な行動が健康に及ぼす意義を再認識させるものでした。主観的に「速い歩行速度」と感じている人は、代謝性疾患のリスクが有意に低いことが明らかになったのです。
たとえば、以下のようなリスク低減が確認されました。
- 糖尿病: リスクが約30%減少(リスク比[RR] 0.70, 95%信頼区間[CI] 0.63–0.77)。
- 高血圧: ウエスト周囲径に基づく肥満群では6%減少(RR 0.94, 95% CI 0.90–0.97)。
- 脂質異常症: BMIとウエスト周囲径を基準にした肥満群では3%減少(RR 0.97, 95% CI 0.94–1.00)。
この結果からわかることは、歩行速度が単なる移動手段以上のものであり、健康の指標としても活用できる可能性があるということです。歩行速度が速い人は、心肺機能が高い傾向があり、それが糖尿病や高血圧といった代謝性疾患のリスク低減に貢献していると考えられています。
歩く速さを意識してみませんか?
この研究の面白いところは、歩行速度が「主観的」に評価されている点です。つまり、自分で「速い」と思っているだけで、実際に速いかどうかは問題ではないのです。健康診断や特別な装置がなくても、日常生活の中で簡単に実践できる方法として、「少しだけ速く歩く」ことを意識してみてはいかがでしょうか。
日常生活の中で取り入れられる小さな行動が、将来的な健康を大きく変える可能性を秘めています。歩行速度を上げることは、肥満や代謝性疾患を予防し、さらに健康寿命を延ばす手助けになるかもしれません。
参考文献:
Yamamoto, Y., Ikeue, K., Kanasaki, M. et al. Association between subjective walking speed and metabolic diseases in individuals with obesity: a cross-sectional analysis. Sci Rep 14, 28228 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-78541-w