赤ワインを飲むと、頭痛がすることがありませんか?白ワインやビールでは問題ないのに、赤ワインだけが頭痛を引き起こすのはなぜでしょうか?
これは長年の謎でした。しかし、最新の研究が、赤ワインに多く含まれるポリフェノールの一種「ケルセチン」が頭痛の原因かもしれないと示しています。
ケルセチンとは?
ケルセチンはフラボノイドと呼ばれるポリフェノール化合物の一つで、ブドウの果皮、玉ねぎ、りんご、緑茶などに豊富に含まれています。抗酸化作用があり、健康維持に役立つ成分として知られていますが、赤ワインには白ワインの約10倍の量のケルセチンが含まれています。
体内に摂取されたケルセチンは代謝され、「ケルセチン-3-グルクロン酸」という物質に変化します。そして、この代謝物が頭痛の引き金になる可能性が示唆されているのです。
ケルセチン-3-グルクロン酸とALDH2阻害の関係
アルコールは体内で代謝される過程で、まずアセトアルデヒドという有害物質に変換されます。これを無害な酢酸に分解する酵素がALDH2(アセトアルデヒド脱水素酵素)です。しかし、ケルセチン-3-グルクロン酸はALDH2を阻害し、この分解過程を妨げることが分かりました。
ケルセチン-3-グルクロン酸はALDH2の活性を最大37%低下させます。これによりアセトアルデヒドが分解されずに体内に蓄積し、頭痛や吐き気の原因となると考えられています。
興味深いことに、ケルセチンを多く含む玉ねぎやりんごなどの食品では、頭痛は起こりません。これは、これらの食品にアルコールが含まれておらず、アセトアルデヒドが生成されないためです。
赤ワインに含まれるケルセチン量とその影響
例えば、赤ワイン1杯(約147ml)には、約50.6μMのケルセチンが含まれています。飲酒後、ケルセチンは血中に取り込まれ、その濃度は最大6μMに達します。そして、そのほとんどが「ケルセチン-3-グルクロン酸」に代謝されます。この濃度は、ALDH2の阻害を引き起こすのに十分なレベルです。
一方、白ワインやビールはケルセチンの含有量が非常に少なく、同様の頭痛を引き起こす可能性は低いと考えられています。
今後の研究と実用的な対策
現時点では、ヒトを対象にした臨床試験が必要ですが、今後の研究では、以下の点が期待されます。
- ケルセチン含有量の異なるワインによる頭痛発生率の比較
- ALDH2の活性が低い体質(遺伝的要因)との関連性の解明
- ワイン中のケルセチン含有量を簡易的に測定する手法の確立
そのうえで、実用的な対策として、ケルセチン含有量が少ないワインを選ぶことで、頭痛を回避できる可能性があります。
参考文献:
Devi, A., Levin, M. & Waterhouse, A.L. Inhibition of ALDH2 by quercetin glucuronide suggests a new hypothesis to explain red wine headaches. Sci Rep 13, 19503 (2023). https://doi.org/10.1038/s41598-023-46203-y