毎朝、テレビや公園で多くの人が実践しているラジオ体操。
ラジオ体操は1928年に始まり、学校や職場での普及を経て、多くの世代に親しまれてきました。
ところで、この体操は、実際にどれほど良い影響をもたらしているのでしょうか。
確かに、それは誰もが知りたいところでしょうし、検証してみる価値がありますね。
歴史あるこの運動プログラムが高齢者の健康維持にどう貢献するのか、最新の研究から見えてきた事実をご紹介します。
東京老人総合研究所の研究チームは、加齢に伴う心身の衰え(フレイル)やその予備状態にある高齢者226名を対象に、12週間にわたるランダム化比較試験を実施しました。
参加者は、「ラジオ体操+栄養指導」を行うグループと、「栄養指導のみ」のグループに分けられました。
ラジオ体操グループでは、週1回のグループセッションと毎日の自宅練習を行うプログラムが組まれました。
主な研究結果
この研究で明らかになったのは以下の点です:
バランス能力の向上: 8-foot up-and-goテスト(8フィートの距離を往復する時間を測るテスト)において、ラジオ体操グループは平均0.3秒の改善を示しました。これは、転倒リスクの減少に繋がり、日常生活の安全性を高める効果が期待できます。
有酸素持久力の向上: 2分間ステップテストでは、ラジオ体操グループは平均3.2歩多くステップを踏むことができるようになりました。これは、心臓や肺の機能を高め、持久力を向上させる効果を示しています。
運動自己効力感の向上: 運動自己効力感スコアは1.4ポイント減少しました。これは、運動に対する自信が高まり、運動を継続する意欲につながることを示しています。
しかしながら、精神的健康関連の質(HRQoL:Health-Related Quality of Life)については、ラジオ体操を行ったグループと行わなかったグループの間で大きな差は見られませんでした。
なぜ精神的健康には影響がなかったのか?
研究チームは、今回の結果についていくつかの理由を挙げています。
一つは、新型コロナウイルス感染症の流行の影響です。
以前の試験では外出制限が厳しかったため、ラジオ体操が気分転換やストレス解消に繋がり、精神的健康の維持に寄与した可能性がありました。
しかし、今回の試験期間中は社会的制約が緩和されており、人々の活動範囲が広がったことで、ラジオ体操の精神的健康への効果が薄れた可能性があります。
また、精神的健康の改善には、単なる運動だけでなく、社会的な交流が重要であることが指摘されています。
オンラインでのグループ体操や交流の機会を加えることで、より効果的なプログラムになるかもしれません。
結論
身体的効果: ラジオ体操は、高齢者のバランス能力や持久力の向上に効果的で、安全に実践できる運動プログラムです。
精神的効果の課題: 精神的健康を改善するためには、社会的な交流を組み合わせたプログラムの工夫が必要です。例えば、体操後の交流会や、オンラインコミュニティなどを活用することで、参加者同士の繋がりを促進することができます。
普及の可能性: ラジオ体操は、特別な器具や場所を必要とせず、誰でも簡単に実践できる運動です。そのため、日本だけでなく、世界中で公衆衛生を支える手段として期待されます。
ラジオ体操は、長年にわたり愛されてきた理由が科学的にも証明されつつあります。
今後、社会的な交流の促進など、さらなる改良と工夫を加えた形で、より多くの人々の健康を支えるプログラムとなることが期待されます。
参考文献:
Osuka Y, Kojima N, Daimaru K, et al. Effects of Radio-Taiso on Health-related Quality of Life in Older Adults With Frailty: a Randomized Controlled Trial. J Epidemiol. 2024;34(10):467-476. doi:10.2188/jea.JE20230317