アルツハイマー病(AD)は、記憶や思考能力を奪う進行性の神経変性疾患であり、世界中で5,000万人以上が罹患し、高齢化社会における大きな課題となっています。
この病気の進行に深く関与しているとされるのが、脳内に蓄積するアミロイドβというタンパク質です。
アミロイドβは長い間「有害物質」として標的とされてきましたが、近年の研究で、その一部が実際には神経を保護する可能性があることが明らかになりつつあります。
新たな治療法の可能性:抗アミロイドβ抗体
従来の治療法は、アミロイドβの生成を抑えることに焦点を当ててきましたが、最近の研究では、特定のアミロイドβである「アミロイドβ42」(Aβ42)を増やすことで治療効果が得られる可能性が指摘されています。
この研究では、抗アミロイドβ抗体と呼ばれる新しい治療薬が、Aβ42を増加させることで記憶機能の低下を抑え、臨床的な衰退を遅らせることができるかを調査しました。
研究結果:数値で見る効果
この研究では、24件の臨床試験、25,966人のデータを分析し、以下の効果を確認しました。
– Aβ42の増加
– 髄液中のAβ42レベルは最大約1,300 pg/ml増加。
– 記憶機能への効果
– 記憶機能を評価するADAS-Cogスコアの低下を抑制(RC = -0.55,P = 0.003)。
– 臨床的衰退への効果
– 臨床進行を評価するCDR-SBスコアの低下を抑制(RC = -0.16,P = 0.002)。
Aβ42の役割と治療効果
Aβ42は、神経細胞の成長や可塑性を促進するだけでなく、抗酸化作用や神経保護作用を持つことが知られています。
アルツハイマー病では、このAβ42が凝集してアミロイド斑を形成することで、脳内のAβ42濃度が低下します。
抗アミロイドβ抗体は、Aβ42の凝集を抑えることでその濃度を回復させ、神経細胞を保護する可能性があります。
今後の展望
この研究は、アルツハイマー病の治療においてAβ42の増加が重要な役割を果たす可能性を示唆しています。
さらなる研究が進むことで、抗アミロイドβ抗体の作用メカニズムが解明され、より効果的な治療法が開発されることが期待されます。
参考文献:
Abanto J, Dwivedi AK, Imbimbo BP, Espay AJ. Increases in amyloid-β42 slow cognitive and clinical decline in Alzheimer’s disease trials. Brain. 2024;147(10):3513-3521. doi:10.1093/brain/awae216
