2026年のFIFAワールドカップは、アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国で共同開催されます。
ワールドカップ史上初の試みであり、選手たちは多様な気候条件に順応する必要に迫られます。
開催地は広範囲にわたり、気候も様々です。
灼熱の太陽が照りつけるスタジアムもあれば、高地にあるスタジアムもあり、選手の体調やパフォーマンスに深刻な影響を与える可能性があります。
過去の大会でも、熱中症で苦しむ選手の姿が見られました。
2014年ブラジル大会では、気温34℃、湿度70%を超える過酷な環境下で行われた試合で、複数の選手が脱水症状や熱中症に悩まされました。
こうした事態を避けるため、2026年大会では、選手の健康を守るための対策がこれまで以上に重要となります。
本研究では、2026 FIFAワールドカップに出場するプロサッカー選手が直面する熱中症のリスクと、それに伴う水分損失量を評価しました。
その結果、16のスタジアムのうち10カ所で、極度の熱ストレスを受けるリスクが非常に高いことが判明しました。
特に、アメリカのアーリントン、ヒューストン、メキシコのモンテレイにあるスタジアムでは、午後には平均気温が49.5℃を超えることが予測されており、1時間あたり1.5kg以上の水分が失われる可能性があります。
これらのスタジアムでは、選手たちはまるでサウナの中でプレーするような過酷な状況に置かれることになります。
熱中症リスクの高いスタジアムと対策
では、なぜこれらのスタジアムで熱中症リスクが高くなるのでしょうか?
その要因としては、スタジアムの位置と気候条件が挙げられます。
アメリカ南部やメキシコの一部では、高温多湿な環境が重なり、特に午後の試合中には選手に過酷な熱ストレスがかかります。
これらの地域では、気温が高いだけでなく湿度も非常に高いため、汗が蒸発しにくく、体温調節が困難になります。
さらに、メキシコシティのタルパンなど標高の高い地域では、空気中の酸素量が少なく、選手の持久力に悪影響を与えることが示唆されています。
高地では、平地よりも酸素が薄いため、呼吸が速くなり、心拍数も上昇します。そのため、選手たちはより多くのエネルギーを消費し、疲労しやすくなるのです。
こうしたリスクに対処するため、2026年のワールドカップでは、以下の対策が不可欠です。
- 試合スケジュールの調整: 最も暑い時間帯を避けて、試合開始時刻を早朝や夕方に変更する。
- 定期的な冷却休憩の導入: 試合中に選手が体を冷やすための時間を設ける。
- 適切な水分補給: 選手たちにこまめな水分補給を促し、電解質を含むスポーツドリンクなどを用意する。
- 高地対策: 標高の高いスタジアムでは、酸素吸入などの対策を検討する。
まとめ
2026年のワールドカップは、選手やスタッフ、観客にとって忘れられない大イベントとなることでしょう。
しかし、その一方で、過酷な環境での試合は選手たちにとって命に関わる挑戦でもあります。
本研究の結果をもとに、選手たちが安全に最高のパフォーマンスを発揮できるような環境整備が求められています。
試合のスケジュール調整や水分補給、酸素摂取に対する対策を徹底し、この夏の熱い戦いが選手たちにとってもファンにとっても素晴らしいものとなることを期待したいと思います。
図表
図1:2026 FIFAワールドカップ開催スタジアムのケッペンガイガー気候区分図

図8:UTCIによる熱中症リスクとSW指数による脱水症状発生確率

図9:2026 FIFAワールドカップ開催スタジアム周辺の酸素量分布

用語解説
- UTCI(Universal Thermal Climate Index): 気温、湿度、風速、放射熱などを考慮して熱ストレスを評価するための指標。
- SW指数: 気温、湿度、風速、代謝熱産生などを考慮して発汗による水分損失量を推定する指標。
参考文献:
Lindner-Cendrowska, K., Leziak, K., Bröde, P. et al. Prospective heat stress risk assessment for professional soccer players in the context of the 2026 FIFA World Cup. Sci Rep 14, 26976 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-77540-1
