心房細動と認知機能の低下

心房細動と認知機能の低下

 

心房細動(AF)は、心臓が不規則に拍動する疾患で、脳卒中リスクの増加に加え、認知機能の低下との関連も指摘されています。

しかし、「BRAIN-AF」試験では、抗凝固薬の使用が認知機能低下を抑制する効果を持たないことが明らかになりました。

この結果から、心房細動による認知機能低下の病態には、まだ解明されていない複雑な要因が関与していると考えられています。

 

BRAIN-AF試験:抗凝固薬リバーロキサバンの効果を検証

この研究は、カナダのモントリオール心臓研究所のLéna Rivard氏らが主導し、心房細動を持つ患者1,235名を対象に行われました。

対象者はリバーロキサバン15 mgまたはプラセボを服用する群にランダムに割り付けられ、中央値3.7年間にわたり追跡されました。

その間、認知機能低下、脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)を含む複合主要評価項目において、リバーロキサバンとプラセボの間に差は見られませんでした。

 

認知機能低下の割合に変化なし

認知機能の評価にはモントリオール認知評価テスト(MoCA)が用いられ、ベースラインから2ポイント以上の低下が認知機能低下と定義されました。

しかし、リバーロキサバン群とプラセボ群の間で、認知機能低下の発生率に有意な違いは見られず、両群ともに約18%の被験者が認知機能低下を示しました。

 

試験結果からの示唆:微小塞栓以外のメカニズム

この研究では、脳卒中のリスクが抗凝固療法のガイドライン基準を満たしていない患者が対象でした。

参加者の年齢は30〜62歳で、過去に脳卒中、高血圧、糖尿病、うっ血性心不全がないことが条件でした。

このような参加者は心房細動のリスクは低いものの、リスクが完全にゼロというわけではありませんでした。

このため、リバーロキサバンの効果を検出するのが難しかった可能性があります。

 

さらに、今回の試験結果から、心房細動に関連する認知機能低下の原因として、微小塞栓以外のメカニズムを探る必要性が示唆されます。

例えば、心房細動によって血流が不安定になることで脳への血流が減少し、それが認知機能低下に影響を与える可能性があります。

この他、心エコー検査で確認された左心房の機能障害が認知機能低下に関連する可能性も考えられます。

 

結論と今後の展望:新たな戦略の必要性

今回の研究により、抗凝固薬リバーロキサバンが心房細動患者における認知機能低下を防ぐ効果がないことが明らかになりました。

しかし、これで問題が解決したわけではありません。

心房細動患者の認知機能低下を防ぐための新たな戦略が必要であり、さらなる研究が求められています。

 

参考文献:

Rivard L, Khairy P, Talajic M, et al. Blinded Randomized Trial of Anticoagulation to Prevent Ischemic Stroke and Neurocognitive Impairment in Atrial Fibrillation (BRAIN-AF): Methods and Design. Can J Cardiol. 2019;35(8):1069-1077. doi:10.1016/j.cjca.2019.04.022