メソポタミアでつくられたフォカッチャの原型?

メソポタミアでつくられたフォカッチャの原型?

 

人類の歴史は「食」によって進化を遂げてきました。

特にパンのようなシンプルな食べ物は、時代や文化を超えて多くの人々に愛されてきた基盤となる食材です。

最近、後期新石器時代(紀元前6400–5900年)のメソポタミアで、現代のフォカッチャに似たパンが作られていた可能性を示唆する興味深い研究が発表されました。

この時代の人々がどのようにしてパンを焼き、どのような材料を使用していたのか、科学的な分析によって新たな知見が得られています。

 

使用されたトレイとパン作りの詳細

メソポタミア北西部の3つの遺跡(Mezraa Teleilat、Akarçay Tepe、Tell Sabi Abyad)から発見された13の陶器のトレイ(「籾殻トレイ」)が、この研究の中心です。

これらのトレイは、パンやフォカッチャを焼くために使われたと考えられ、その証拠として、使用痕(摩耗の跡)、植物珪酸体(フィトリス)、有機残留物が分析されました。

 

研究チームはこれらの陶器片を調査し、現代のレプリカを用いて焼成実験を行いました。

その結果、420℃に熱したドーム型のオーブンで2時間ほど焼くと、トレイの内面にある独特の凹凸がパンを取り出す際の「非粘着性機構」として機能することが確認されました。

さらに、パン生地には動物性脂肪や植物油が加えられており、結果としてフォカッチャのような柔らかく風味豊かな製品ができました。

 

写真:レプリカによって作られたフォカッチャ

 

パンの材料と製法

陶器片から検出された植物珪酸体(植物の細胞壁に含まれる微細なシリカの粒子)の分析により、小麦や大麦の痕跡が確認されました。

このことから、これらの穀物は地元で栽培され、石臼で挽かれてパン作りに使用されていたと考えられます。

さらに、ガスクロマトグラフィーと質量分析法による調査では、一部のトレイから動物性脂肪の残留物が検出され、脂肪分がパン生地に加えられていた可能性が示されました。

 

これらの証拠から、後期新石器時代のメソポタミアでは、シンプルなパンに加えて、動物性脂肪や植物油を使用したフォカッチャのような製品も作られていたことがわかります。

この地域の人々はすでに多様なレシピを試み、食の豊かさを追求していたことが考古学的に示されています。

 

研究結果

この研究では、籾殻トレイ(HT)がパンやフォカッチャを焼くために使用されていたことが確認されました。

また、動物性脂肪や植物油がパン生地に加えられ、より柔らかく風味豊かなパンが作られていたことも明らかになりました。

さらに、使用痕と残留物の分析から、パンの焼成方法や材料の多様性も示されました。

 

古代の食文化の豊かさ

この研究を通じて、古代メソポタミアの食文化の一端を垣間見ることができます。

彼らは地域の資源を最大限に活用し、材料や調理法に創意工夫を凝らしていました。

現代の私たちがパンを焼く際に感じる楽しみと同様に、彼らも美味しい食べ物を追求し、日常の食卓を豊かにしていたことでしょう。

この研究は、古代の食文化が持つ多様性と創造性を鮮やかに示しています。

 

参考文献:

Taranto, S., Barcons, A.B., Portillo, M. et al. Unveiling the culinary tradition of ‘focaccia’ in Late Neolithic Mesopotamia by way of the integration of use-wear, phytolith & organic-residue analyses. Sci Rep 14, 26805 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-78019-9