カフェインは、多くの人々にとって(もちろん私にとっても)不可欠ともいえる存在です。
コーヒーや紅茶、エナジードリンクに含まれるこの化合物は、覚醒作用や集中力の向上などの効果が知られています。
しかし近年、カフェインが神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)や軽度認知障害(MCI)の進行に対して潜在的な保護効果を持つ可能性について注目が集まっています。
ここでは、BALTAZARコホート研究の結果を基にした、カフェイン摂取と認知機能および脳内バイオマーカーに及ぼす影響についての報告を紹介します。
カフェイン摂取とアルツハイマー病の関連性
フランスで実施されたBALTAZARコホート研究では、MCIおよびAD患者263名を対象に、カフェイン摂取量と脳脊髄液(CSF)中のバイオマーカーとの関連が調査されました。
研究の結果、1日あたりのカフェイン摂取量が少ない(216mg以下)患者は、記憶障害のリスクが2.5倍に増加することが示されました。
この「216mg」という量は、コーヒー約2杯分に相当し、カフェイン摂取量が脳の健康に関与していることを示唆する重要な指標です。
さらに、低カフェイン摂取群では、CSF中のアミロイドベータ(Aβ1-42)の濃度が低下していることが確認されました。
Aβ1-42はアルツハイマー病の主要な病態形成因子であり、その濃度低下は病気の進行を示唆します。
カフェインの摂取量が脳内のアミロイド代謝に関与し、神経保護効果を発揮する可能性が示されているわけです。
本研究で得られた主な結果を以下の通りです:
– 低カフェイン摂取と記憶障害リスクの増加: カフェイン摂取量が少ない患者は、記憶障害を発症するリスクが2.5倍に増加しました。
– 低カフェイン摂取とCSF中アミロイドベータ濃度の低下: カフェイン摂取量が少ないと、CSF中のAβ1-42の濃度が顕著に低下することが確認されました。このことは、カフェインがアミロイドの生成やクリアランスに影響を与える可能性を示しています。
– カフェインの認知症進行抑制効果の可能性: 適度なカフェイン摂取は、ADおよびMCIの進行を遅延させる効果が期待されています。
カフェインの適切な利用に向けて
カフェインの過剰摂取は健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、その適切な摂取量には注意が必要です。
しかし、BALTAZARコホート研究の結果から、適度なカフェイン摂取が神経保護に寄与し、認知機能の維持に効果的であることが示されています。
カフェインの適切な摂取を通じて、アルツハイマー病や軽度認知障害の進行を抑制する可能性があるため、日々の習慣としてのコーヒーが単なる嗜好以上の意味を持つかもしれません。
摂取量には十分注意し、適切な範囲でのカフェイン利用を心がけましょう。
参考文献:
Blum D, Cailliau E, Béhal H, et al. Association of caffeine consumption with cerebrospinal fluid biomarkers in mild cognitive impairment and Alzheimer’s disease: A BALTAZAR cohort study. Alzheimers Dement. 2024;20(10):6948-6959. doi:10.1002/alz.14169