空気清浄機は感染症を防げるのか?高齢者施設での実験

  

高齢者施設での感染症対策といえば、手洗いやマスク着用が一般的ですが、室内の空気を「清浄」に保つことがどれだけ効果的かはあまり知られていません。

そんな中、オーストラリアで「空気清浄機」が感染予防に役立つかを検証する研究が行われました。

その結果には、意外な現実と新たな可能性が見え隠れしていました。

 

実験の背景と方法

この研究は、オーストラリアの3つの高齢者施設で2023年に実施されました。

対象となったのは、平均年齢85歳の135名の入居者で、全員が個室に住んでいました。

研究では、参加者を以下の2つのグループに分けました。

  1. 介入群: HEPA-14フィルター付きの空気清浄機を設置。
  2. 対照群: フィルターなしの空気清浄機を設置。

3か月ごとにグループを入れ替え、6か月間にわたりARIs(急性呼吸器感染症)の発生率を追跡しました。

ARIsには、インフルエンザや新型コロナウイルス、RSウイルスなどが含まれ、咳や喉の痛み、鼻づまりなどの症状が発生すると感染とみなされました。

 

結果:空気清浄機の効果

研究の最終結果を見ると、「空気清浄機が劇的な効果をもたらした」という結論には至りませんでした。

しかし、研究を最後まで続けた104人のデータでは、興味深い結果が得られました。

全体での結果(135名を対象)

  • フィルター付きのグループの感染率: 24.8%
  • フィルターなしのグループの感染率: 34.2%
  • 統計的には有意差なし(P = .07)。

研究を最後まで続けた人(104名)の結果

  • フィルター付きのグループの感染率: 24.0%
  • フィルターなしのグループの感染率: 35.6%
  • 有意な減少が確認された(P = .048)。

 

「研究を最後まで続けた人」とは?

6か月間の研究を通じて、全135人中31人(約23%)が離脱しました。その理由は以下の通りです:

  • 死亡: 27人(87.1%)
  • 施設の移動: 2人(6.5%)
  • 参加意欲の喪失: 2人(6.5%)

このため、104人のデータが「研究を最後まで続けた人」として分析されました。

研究完了者のデータは、最初から最後までの全ての条件を経験しており、介入(空気清浄機の設置)の効果を正確に比較するための重要なデータとされています。

 

この結果が示すもの

この研究からわかるのは、空気清浄機が全ての人に大きな効果をもたらすわけではない、という現実です。

一方で、研究完了者のデータを見ると、空気清浄機が感染率を下げる可能性を示唆しています。

 

また、この結果には研究環境の影響も考えられます。

例えば、施設内ではマスクの着用や定期的な抗原検査が行われており、他の感染対策が強化されていたことが、空気清浄機の単独効果を見えにくくしていた可能性があります。

 

今後の課題と展望

この研究は、高齢者施設での空気清浄機の利用に対する科学的な基盤を提供しました。

しかし、途中離脱者が多い点や、データ収集の範囲の限界がありました。

次のステップとして、より大規模な試験や、施設単位での研究が求められます。

 

感染症対策は一つの方法だけで完璧を目指すのではなく、複数の方法を組み合わせることが重要です。

 

参考文献:

Thottiyil Sultanmuhammed Abdul Khadar B, Sim J, McDonald VM, McDonagh J, Clapham M, Mitchell BG. Air Purifiers and Acute Respiratory Infections in Residential Aged Care: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2024;7(11):e2443769. Published 2024 Nov 4. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.43769