あまり想像できないかも知れませんが、医者が病気になって他の医者にかかるとき、その言葉のやり取りで、実はひそかに自分の診療態度を反省することがあります。
「こんな声がけは安心感を与えてくれる。私はそうしていただろうか」とか「これじゃ患者が戸惑うな。私はやらないようにしておこう」と感じるわけです。
病院で医師や看護師と会話するとき、やはり不安や戸惑いを感じるものです。
特に重い病気に直面したとき、医師の言葉一つで心が救われたり、逆に不安が増してしまったりすることがあります。
言葉の選び方次第で、患者さんの気持ちは大きく変わります。
私自身、このコミュニケーションの難しさと重要性を日々感じています。
例えば、「もうできることは何もありません」と伝えると、患者さんにとっては希望が完全に絶たれたように感じてしまうでしょう。
しかし、これを「〇〇療法は効果がありませんでしたが、まだ症状を緩和し生活の質を向上させるための治療があります」と言い換えれば、次の一歩を踏み出す力を患者さんに与えることができます。
言葉の選び方ひとつで患者さんの気持ちは大きく変わります。
最近の研究では、患者さんとの対話において医療従事者が避けるべき「Never Words」、つまり「使ってはいけない言葉」を意識することが、良好なコミュニケーションにつながることがわかっています。
この研究では、患者さんとの対話において避けるべき言葉と、その別の表現が具体的に示されています。
Never Wordsと別の表現
1. 「もうできることは何もない」
– 別の表現: 「〇〇療法は効果がなかったが、症状を改善し生活の質を向上させるための治療をまだ行うことができる」
– 患者に対して、まだできることがあるという希望を示し、不安を和らげます。
2. 「良くならない」
– 別の表現: 「回復しないかもしれないことが心配です」
– 回復の見込みが低い場合でも、断定的ではなく、感情を共有することで共感を示します。
3. 「すべてをやりますか?」
– 別の表現: 「状況が悪化した場合に考えられる選択肢について話し合いましょう」
– 患者の価値観や希望に基づいた選択を話し合う姿勢を持ち、決定のプロセスを共有します。
4. 「幸運にもステージ2でした」
– 別の表現: 「がんと診断されたことは、きっと不安で恐ろしいことでしょう。しかし、私たちは最善を尽くして治療に取り組みます」
– 患者の感情に寄り添い、安易に楽観的な印象を与えるのではなく、共感を示すことが重要です。
なぜこれが大切なのか?
「Never Words」を避けることで、患者さんが自分の治療に対して選択肢を持ち、積極的に関わることができるようになります。
医師とのコミュニケーションがオープンになり、信頼関係が築かれることで、患者さんの心の負担が軽くなり、安心感を得られます。
これは医療の質を高めるだけでなく、患者さんやそのご家族にとっても大きな支えとなります。
病院での医師との会話は、ただの医学的な情報交換ではなく、私たちの人生に大きな影響を与える「メッセージ」となります。
だからこそ、コミュニケーションを通じてより良い医療体験を作ることがとても重要になります。
私が、それをできているかというと、正直なところ自信がありません。
日々、精進しなければならないと感じているところです。
参考文献:
Lee Adawi Awdish R, Grafton G, Berry LL. Never-Words: What Not to Say to Patients With Serious Illness. Mayo Clin Proc. 2024;99(10):1553-1557. doi:10.1016/j.mayocp.2024.05.011