AIが紡ぐ詩の世界:谷川俊太郎さんを偲んで

AIが紡ぐ詩の世界:谷川俊太郎さんを偲んで

 

詩人・谷川俊太郎さんが2024年11月13日に逝去されました。

謹んでお悔やみ申し上げます。

彼の作品「二十億光年の孤独」や「生きる」は、多くの人々に深い感動と励ましを与えてきました。

 

詩は、私たちの心に響く特別な表現形式です。

谷川さんやまど・みちおさんの詩は、平易な言葉で深い哲学的な問いを投げかけ、読む者の心を温めてくれます。

 

近年、人工知能(AI)の進化により、AIが詩を生成することが可能となり、その評価が高まっています。

科学者たちは、AIが生成した詩と人間が書いた詩を一般の人々に読み比べてもらい、どちらがAIか人間かを判断する研究を行いました。

その結果、AIが生成した詩は人間が書いた詩と区別がつかず、むしろ高く評価される傾向があることが明らかになりました。

 

この研究では、シェイクスピアやエミリー・ディキンソンなどの著名な詩人の詩と、それらのスタイルを模倣してAIが生成した詩を使用しました。

非専門家1,634人が参加し、それぞれの詩について「これはAIが作ったものか、人間が書いたものか」を判断しました。

また、詩の質(リズム、美しさ、感動など)を14の項目で評価しました。

興味深いことに、詩がAI生成または人間作と知らされる条件を設定することで評価が異なることが明らかになりました。

 

研究の結果、AIが生成した詩は「人間らしさ」で高く評価され、識別正答率は46.6%と偶然以下でした。

さらに、AI生成の詩はリズムや美しさで人間の詩を上回る評価を受けました。

しかし、詩がAI生成と明示された場合、評価が大きく低下し、逆に「人間作」と信じ込むと高評価になりやすいことが分かりました。

また、非専門家は理解しやすい詩を好む傾向があり、AI詩はシンプルで直接的な言葉を使うため高評価を得ました。

一方、人間の詩は複雑な比喩や文脈を含むため「難解」と感じられることが多かったようです。

 

この結果は、AIが人間の創造性に迫る力を持つことを示す一方で、「詩とは何か?」という根本的な問いも投げかけています。

詩を書くという行為は、ただ美しい言葉を紡ぐだけではなく、自分の中にある情動や悩み、煩悶を文字に落とし込み、魂を浄化し、救済するための手段でもあります。

人間は、感じたことを表現することで自分自身と向き合い、その過程で心の中の混乱を整理し、癒しを得ます。

AIが生成する詩は、確かに私たちの感性に訴えかける力を持つかもしれませんが、その詩には人間が書く詩の持つ「魂の浄化」のプロセスが欠けています。

人が詩を書くとき、それは感情の解放であり、人生の経験を言葉に凝縮し、他者と共感を分かち合う試みです。

AIが生み出す言葉がいかに美しくとも、その背後には経験や苦悩がないため、私たちが感じる深い救済の感覚とは異なるのかもしれません。

 

技術と人間の感性が交差する未来が、すぐそばまで来ています。

次にAIが作った詩を読むとき、「もしこれを谷川俊太郎さんが読んだらどう思うだろう?」と想像してみるのも面白いかもしれません。 

 

参考文献:

Porter, B., Machery, E. AI-generated poetry is indistinguishable from human-written poetry and is rated more favorably. Sci Rep 14, 26133 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-76900-1