退職は人生における大きな転換期であり、生活の質に大きな影響を与えます。
中でも、孤独感は高齢者の健康や幸福度を左右する重要な要素となります。
ヨーロッパでは、高齢者の孤独が深刻化しており、政策立案者たちもこの問題に真剣に取り組んでいます。
その背景には、平均寿命の上昇や出生率の低下による高齢化社会の進展があります。
従来、退職は仕事上の人間関係の喪失や社会的な交流の減少をもたらし、孤独感を増加させる可能性があると懸念されていました。
しかし、近年の研究では、退職が孤独感に与える影響は必ずしもネガティブなものではないことが示されています。
調査結果
ヨーロッパ13カ国とイスラエルの高齢者を対象とした大規模な調査によると、退職後長期的には孤独感が減少する傾向が見られました。
この調査では、退職による孤独感の変化を、退職直後(短期)と退職から4~6年後(長期)に分けて分析しています。
短期的な影響はほとんど見られませんでしたが、長期的に見ると、孤独感を示す尺度が有意に減少しました。
これは、退職後に人々が社会的な活動レベルを高め、その結果として孤独感や孤立感が軽減されたことを示しています。
退職後の社会参加
退職後に孤独を感じにくくなる要因の一つとして、社会参加が挙げられます。
調査によると、退職者は、ボランティア活動や教育、スポーツ、地域活動など、さまざまな活動に参加する傾向が見られました。
特に、高学歴のグループでは、社会参加による孤独感の軽減効果が顕著でした。
パートナーの退職状況
興味深いことに、女性の孤独感は、パートナーの退職状況に大きく影響を受けることがわかりました。
パートナーがまだ働いている場合、退職直後に孤独感が増加する傾向が見られましたが、長期的には減少しました。
これは、パートナーが退職することで、夫婦で過ごす時間が増え、孤独感が軽減されるためと考えられます。
結論
退職は、人々の社会的なつながりや孤独感に影響を与える可能性がありますが、その影響は必ずしもネガティブなものではありません。
社会参加や家族との時間など、孤独感を軽減するためのさまざまな要素が存在します。
高齢化社会が進む中、退職後の生活の質を高めるためには、社会的なつながりを維持・強化するための支援や、高齢者が積極的に社会参加できる環境づくりが重要となります。
参考文献:
Guthmuller, S., Heger, D., Hollenbach, J. et al. The impact of retirement on loneliness in Europe. Sci Rep 14, 26971 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-74692-y