お酒は、適量であれば健康に良いという説もありますが、最近の研究では、飲酒量が多いほど認知症のリスクが高くなるという結果が出ています。
この研究はイギリスのデータベースを基に、30万人以上の飲酒者を約13年間追跡し、アルコール摂取量と認知症リスクとの関係を調べました。
その結果、「適量の飲酒が安全」とは言い切れない可能性が示されました。
まず、今までの一般的な疫学的な分析では、アルコール摂取量と認知症リスクに「J字型」の関係が見られていました。
つまり、まったく飲まない人や大量に飲む人よりも、少量〜中等量の飲酒者の方がリスクが低いように見える、というものです。
しかし、この結果はあくまで観察データに基づくもので、飲酒以外の要因(健康状態や生活習慣)が影響している可能性がありました。
今回の研究では、この「J字型」の関係に対して、メンデルランダム化という遺伝的手法を用いて、より因果関係を正確に検証したのでした。
メンデルランダム化とは、遺伝情報を用いることで生活習慣や健康状態の影響を排除し、飲酒量と認知症リスクの純粋な関係を調べる方法です。
– 調査対象は、イギリスの白人飲酒者313,958人で、彼らは週平均13.6ユニット(ワインなら約8杯分)飲んでいました。男性は平均20.2ユニット、女性は9.5ユニットと、男女で差が見られました。
– 約13年間の追跡期間中に、1.7%にあたる5,394人が認知症を発症しました。
– 観察データによる「J字型」関係とは異なり、遺伝的手法を用いた解析では、アルコール摂取が増えると認知症リスクが高まる「直線的」な関係が確認されました。特に女性ではこの傾向が顕著でした(図参照)。

図では、全体、男性、女性それぞれの飲酒量に対する認知症リスクの変化が示されており、特に男性と全体では、アルコール摂取量が一定の範囲を超えるとリスクが急激に上昇する様子が視覚的にわかります。
この研究は、アルコールの摂取量が増えると認知症リスクが増加することを示していて、「安全な飲酒量は存在しない可能性がある」と結論づけています。
「少しの飲酒なら健康に良いかもしれない」という期待は、この結果からは支持されていません。
アルコールは神経に有害な影響を与える可能性があり、少量でもそのリスクが無視できないと考えられます。
つまり、今回の研究は、「適量ならば安全」という従来の認識を覆すものです。
今後の飲酒習慣に対する認識を変える可能性があります。
もちろん、飲酒が心身に与える影響は個人差が大きく、すべての人に当てはまるわけではありませんが、この結果は、認知症予防の観点から飲酒を控えることが賢明であるかもしれないと示しています。
参考
- 1ユニットは約8gのアルコールに相当します。
- 週に14ユニット以上の飲酒は、1日あたり約15g以上のアルコール摂取に相当します。
- 日本酒1合は約20g、ビール500mlは約20g、ワイングラス1杯は約12gのアルコールを含んでいます。
参考文献:
Zheng L, Liao W, Luo S, et al. Association between alcohol consumption and incidence of dementia in current drinkers: linear and non-linear mendelian randomization analysis. EClinicalMedicine. 2024;76:102810. Published 2024 Sep 5. doi:10.1016/j.eclinm.2024.102810
