急性呼吸器感染症に対する抗生物質の使われ方が、日本のクリニックではどのような特徴があるのかを調査した研究があります。
抗生物質が効かないウイルス性の風邪に対しても、抗生物質が処方されてしまうことが多いと聞いたことがある方も多いかもしれません。
それが実際にどのくらい起きているのか、そしてどんな医師がそのような処方をしているのかを掘り下げた研究です。
この研究では、全国のプライマリケアクリニックを対象に、2022年から2023年にかけて集められたデータを分析しました。
その結果、977,590件の受診記録のうち、17.5%で抗生物質が処方されていたことがわかりました。
これだけでもかなり多く感じますが、そのうちの88.3%が「広域スペクトル抗生物質」と呼ばれる、いろいろな種類の細菌に効くタイプのものでした。
具体的には、最も多く処方されたのはクラリスロマイシン(30.7%)、次いでレボフロキサシン(12.2%)でした。
注目したいのは、どんなクリニックが特に抗生物質を処方しがちかということです。
この研究によると、60歳以上の医師がいるクリニックでは、45歳未満の若手医師がいるクリニックに比べて、抗生物質を処方する傾向が2倍以上高いことが明らかになりました。
また、1日に見る患者数が多いクリニックでも、抗生物質の処方が増える傾向がありました。
これは、患者を多く診なければならないことで、時間に追われ、迅速な対応を求められる中での判断が影響しているのかもしれません。
さらに興味深いのは、単独で診療している医師よりも、グループ診療の医師のほうが抗生物質の処方を抑えられていることです。
仲間と相談しながら治療方針を決められる環境が、適正な抗生物質の使い方に寄与していると考えられます。
この研究結果から、抗生物質の適正使用を目指すためには、特に高齢の医師や患者数が多いクリニックに対して、適切な教育やサポートが必要であることが見えてきます。
抗生物質の乱用は、将来的に「抗生物質が効かない細菌=耐性菌」を生み出す原因となり、我々自身の健康を脅かすリスクを高めてしまいます。
皆さんにも、次に風邪をひいたとき、むやみに抗生物質の処方を求めないことをおすすめします。
参考文献:
Aoyama R, Tsugawa Y, Ishikane M, Kitajima K, Sato D, Miyawaki A. Clinic Characteristics and Antibiotic Prescribing for Acute Respiratory Infections in Japan. JAMA Netw Open. 2024;7(10):e2440406. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.40406