慢性腎臓病とスピロノラクトン

慢性腎臓病とスピロノラクトン

 

慢性腎臓病(CKD)患者における心血管リスクを減らすための方法として、これまで「スピロノラクトン」という薬が使われてきました。

価格が手頃なこともありますが、いくつかの研究から心臓や腎臓を守る可能性が期待されていたためです。

今回の研究で、中等度のCKD患者に対してこの薬がどれほど効果的であるかを改めて検証されました。

 

この研究は、イギリスで行われたもので、対象はCKDステージ3b(eGFRが30〜44 ml/分/1.73m²)の高齢患者でした。

参加者の平均年齢は74.8歳で、1,434名が選ばれ、そのうち1,372名が最終的な解析対象となりました。

研究の方法は、参加者を「スピロノラクトンを服用するグループ」と「通常治療のみを受けるグループ」に分け、心血管疾患の発症を3年間追跡するというものでした。

 

具体的に調べたのは、心臓発作、心不全、脳卒中などの心血管イベントの発生率でした。

その結果は以下の通りです。

 

– スピロノラクトン群:677名中113名(16.7%)が心血管イベントを発生。

– 通常治療群:695名中111名(16.0%)が心血管イベントを発生。

 

この差は統計的に有意ではなく、つまりスピロノラクトンが心血管リスクを減少させる効果は確認できませんでした。

 

下の図をご覧ください。

 

 

この「Kaplan-Meier曲線」は、スピロノラクトン群(青線)と通常治療群(赤線)における心血管イベント発生までの期間を示したものです。

両グループの曲線がほぼ重なっていることから、視覚的にも心血管イベントの発生に有意な差がないことがわかります。

 

また、副作用についても重要な点がありました。

スピロノラクトンを服用していた患者の約3分の2が、治療開始から6ヶ月以内に中止しました。

その主な理由は以下の通りです。

 

– 腎機能の低下(35.4%)

– その他の副作用(18.9%)

– 高カリウム血症(8.0%)

 

この結果から、スピロノラクトンの使用には安全面での懸念が強いことが示されました。

 

結論として、この研究から得られるメッセージは非常に明確ですが、この研究は中等度のCKD(ステージ3b)患者に対するものであり、ステージ2やステージ3aなどの軽度のCKD患者に対する効果や安全性については言及していないことに注意が必要です。

結果として、スピロノラクトンは中等度のCKD患者における心血管リスクの低減には寄与せず、安全性の問題から多くの患者が治療を続けられなかったことが示されました。

特別な理由がない限り、この薬を中等度のCKD患者に使用するのは控えるべきだということですね。

 

参考文献:

Hobbs, F.D.R., McManus, R.J., Taylor, C.J. et al. Low-dose spironolactone and cardiovascular outcomes in moderate stage chronic kidney disease: a randomized controlled trial. Nat Med (2024). https://doi.org/10.1038/s41591-024-03263-5