私たちは誰かに見られていると、行動に気を使うことがあります。
これは「監視の目効果」として知られ、人が他者の視線を感じることで反社会的行動を抑制する現象です。
さて、これは犬にも同様に当てはまるのでしょうか?これが今回の研究テーマです。
この疑問を解明するために、ニュージーランドの研究チームは、58匹の犬を対象に実験を実施しました。
実験では、犬の目の前に食べ物を置き、その背後に「目の画像」または「花の画像」を掲示し、犬がどのように反応するかを観察しました。(下図)

実験は「Go!」と「Leave!」という2種類のテストで構成されており、「Go!」の指示では犬に食べ物を取るよう促し、「Leave!」の指示では食べ物を取らないように命じました。
結果は予想外のものでした。
「Leave!」のテストにおいて、目の画像が掲示されている場合でも、花の画像が掲示されている場合でも、犬が食べ物を取るまでの時間にはほとんど違いが見られなかったのです。
つまり、「目の画像」が犬に対して特別な行動の自制を促すことはなかったのです。
このことから、犬は「監視の目」を特別に意識しているわけではなく、人間が感じるような「見られているから自制しよう」という意識は持っていないと考えられます。
この実験で使用された統計モデルは、犬が各テストでどのように反応するかを分析するためのものでした。
この統計分析に基づくと、「Go」と「Leave」の指示の違い、つまり命令に従うかどうかが犬の行動に大きな影響を与えることがわかりました。
しかし、背後に掲げられた画像が「目」か「花」かという条件は、犬の行動にはほとんど影響を及ぼさなかったのです。
具体的に言うと、目の画像が掲示されていても花の画像と同じように、犬は命令を受けた後すぐに食べ物に向かいました。
では、なぜ人間は「監視の目効果」を感じるのでしょうか?
一つの仮説として、人間は社会的な名声を大切にし、罰を避けるために「見られていること」を強く意識するよう進化してきたのではないか、というものがあります。
これに対して、犬は人間ほど社会的な名声に敏感ではなく、むしろ飼い主の指示に従うことを重視しているようです。
そのため、目の画像などの「視線の存在」は犬にとって行動を変える要因にはならないのかもしれません。
この研究から見えてくるのは、人間と犬とでは「見られている」という状況の捉え方が大きく異なるということです。
私たちが普段、他者の目を意識して行動を変えるのは、人間特有の社会的性質によるものであり、犬のような動物には必ずしも当てはまるわけではありません。
この違いを理解することで、動物の行動や人間の社会性について新たな視点を得られるかもしれませんね。
参考文献:
Neilands, P., Hassall, R., Derks, F. et al. Watching eyes do not stop dogs stealing food: evidence against a general risk-aversion hypothesis for the watching-eye effect. Sci Rep 10, 1153 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-58210-4
