東南アジアの熱帯雨林には、豊かな生物多様性が広がっています。
その一部分として、コウモリは哺乳類の約3分の1を占めており、ベトナムの生態系でも大きな存在感を放っています。
しかし、コウモリたちは夜行性であり、さらに隠れた場所に潜むことが多いため、研究対象としては非常に難しい存在といえます。
そんな中で役立つのが、コウモリの「声」、すなわち反響定位(エコーロケーション)を利用した研究です。
エコーロケーションとは、コウモリが超音波を発して、その反射音を聞き取ることにより、周囲の物体の位置や距離を正確に把握する仕組みです。
この能力によって、コウモリは暗闇の中でも効率的に獲物を探し出し、障害物を避けることができるのです。
今回の研究では、ベトナムに生息するコウモリのエコーロケーションコールについて、詳細な調査を行いました。
その分析対象は87種に及び、これはベトナムで確認されている反響定位を持つコウモリの74%に相当します。
また、これまで記録がなかった5種の「声」についても新たに記述することができました。
この研究によって、研究者たちはコウモリの生態や行動について、これまで以上に深く理解することが可能になったのでした。
研究の方法としては、1,042の録音から3,438の反響定位パルスを手作業で解析しました。
例えば、Rousettus leschenaultiiという種は、舌でクリック音を発することでエコーロケーションを行うことが知られています。
そのクリック音は低い周波数で、独特の音響的な構造を持っていました。
また、Lyroderma lyraという種では、短く狭帯域のFMコールが観察され、そのコールには多くの情報が含まれていました。
このようにして、各コウモリ種が持つ独自のエコーロケーションの特徴を明らかにすることができました。
さらに注目すべき点は、この研究によって収集されたすべての音声データが、オープンアクセスのデータベース「ChiroVox」に公開されていることです。
これにより、他の研究者や自然保護活動家がこのデータを利用し、コウモリの保全活動やさらなる研究を推進することが可能になります。
このデータは、コウモリの種の特定や、さまざまな環境での行動解析など、多岐にわたる用途で活用されるでしょう。
結論として、今回の研究から得られた主な成果は次の通りです:
– ベトナムに生息する87種のコウモリのエコーロケーションコールを詳細に記録し、それらの多様性を明らかにしたこと。
– これまで記録されていなかった5つの新しい種の「声」を初めて記述したこと。
– 収録したデータを公開し、他の研究者が再解析や保全活動に活用できる基盤を提供したこと。
コウモリたちは、暗闇の中で小さな声を頼りに飛び回り、その「声」は彼らの日常生活に欠かせないものです。
この研究を通じて、私たちはコウモリたちの生活の一端を垣間見ることができました。
そして、その小さな声を守ることが、結果として森全体の保全にもつながるはずです。
参考文献:
Győrössy, D., Csorba, G., Szabadi, K.L. et al. The calls of Vietnamese bats: a major step toward the acoustic characterization of Asian bats. Sci Rep 14, 23335 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-72436-6
