不眠症には、「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚めてしまう」など、さまざまなタイプがあります。
これまで「睡眠導入障害」や「中途覚醒」など、臨床的な睡眠障害の分類がありましたが、最近の研究では、不眠症をいくつかのサブタイプに分類し、脳の「構造的ネットワーク」を調べることで、それぞれに異なる脳の特徴があることがわかってきました。
このように、実際に脳のネットワークの違いを見出したことは、不眠症の理解において非常に意義があります。
この研究では、不眠症のある204名と、睡眠に問題のない73名を対象に、MRIを用いて脳の構造的ネットワークを評価しました。
不眠症の人々は、ストレスや感情の反応の仕方に基づいて、5つのサブタイプに分類されました。
また、報酬に対する反応の強さが睡眠に与える影響も注目されました。
報酬に敏感な人は、日中の出来事に強く反応するため、その影響が夜間のストレスとなり、不眠につながることが考えられています。
– 高度なストレス型:特にストレスに対して強い反応を示す。
– 適度なストレスに対する報酬感受型:日常生活でのプレッシャーや仕事の締め切りといった適度なストレスに対して、報酬や褒められることに強く反応するタイプ。ストレスに反応しつつも、報酬を大きく感じることで行動に変化が起こりやすいのが特徴です。
– 適度なストレスに対する報酬鈍感型:適度なストレスに対して、報酬や褒められることにあまり反応しないタイプ。ストレスがあっても報酬を感じにくく、行動への影響が少ないことが特徴です。
– わずかなストレスに対する好反応型:軽いストレスでも大きく反応する。
– わずかなストレスに対する低反応型:軽いストレスに対してもあまり反応しない。
各サブタイプでは、脳内ネットワークに違いがあることがわかりました。
たとえば、「高度なストレス型」では、デフォルトモードネットワーク(DMN)の接続が強化されていることが確認されました。
DMNは、何もしていないときに考え事をしたり、自分自身について内省したりする際に活動する部分です。
このサブタイプでは、ストレスに対する過剰な反応がDMNの活動に影響を与え、ストレスに関する思考が過度に続いてしまい、不眠の原因となる可能性があります。
「わずかなストレスに対する好反応型」では、腹側注意ネットワーク(VAN)の接続が強化されていることが確認されました。
VANは、周囲の環境から重要な情報を見つけ出す際に働くネットワークです。
この接続が強化されることで、些細な刺激にも過敏に反応しやすくなり、不眠の一因となる可能性があります。
このように、不眠症の各タイプでは、脳内の異なるネットワークに問題があり、それが症状の違いを引き起こしていると考えられます。
DMNとVANの違いから、不眠症のサブタイプごとに異なる脳機能が関与していることが示されています。
DMNの強化はストレスに対する内省的な思考を強め、不眠につながる可能性があります。
一方、VANの強化は外部の刺激に対する過敏な反応を引き起こし、これも不眠の一因となり得ます。
そのため、不眠症の治療には、各サブタイプに合わせたアプローチが有効です。
たとえば、「高度なストレス型」にはストレス管理のカウンセリングが効果的であり、「わずかなストレスに対する好反応型」にはリラクゼーションの練習が有効である可能性があります。
この研究から、不眠症は単に「眠れない」という問題にとどまらず、脳の構造や機能の違いが影響している複雑な状態であることがわかります。
自分がどのタイプの不眠症に該当するのかを理解し、それに合わせた治療法を選ぶことで、より良い睡眠を得られるかもしれません。
参考文献:
Bresser T, Blanken TF, de Lange SC, et al. Insomnia Subtypes Have Differentiating Deviations in Brain Structural Connectivity. Biol Psychiatry. Published online June 27, 2024. doi:10.1016/j.biopsych.2024.06.014