2020年、私たちは思いもよらない日常の変化に直面しました。
COVID-19のパンデミックは、都市を封鎖し、人々の活動を一時的に停止させました。
工場は止まり、交通量も減少。
この結果、大気中の汚染物質や温室効果ガスの排出が著しく減少しました。
しかし、影響を受けたのは地球だけではなかったようです。
驚くべきことに、地球から約38万kmも離れた月にもその影響が及んだことが、新たな研究で明らかになりました。
月と地球は常に放射エネルギーをやり取りしています。
特に月の夜間、太陽からの光が届かない時間帯には、地球から放射されるエネルギーが唯一の外部熱源です。
この「地球放射」と呼ばれるエネルギーが、月の表面温度に直接影響を与えています。
そして、2020年の世界的なロックダウン期間中、地球からの放射が減少し、その結果、月の夜間表面温度が通常とは異なる挙動を示しました。
NASAの探査機「ルナー・リコナサンス・オービター(LRO)」が観測したデータによると、2017年から2023年にかけて、月面の6カ所で夜間の温度を記録しました。
特に2020年4月から5月にかけて、すべての観測地点で8〜10K(ケルビン)の温度低下が確認されました。
この異常な温度低下は、他の年には見られなかったものです。
地球は常に太陽からエネルギーを受け、その一部を大気中に蓄積し、残りを宇宙へと放出しています。
この放出されるエネルギーが地球放射です。
しかし、COVID-19のロックダウン期間中、人々の活動が大幅に減少したため、温室効果ガスやエアロゾルの排出量が急激に減りました。
具体的には、短波放射は約17〜20%減少し、長波放射もそれに応じて減少した結果、月に届く放射エネルギーが減り、月面の温度が下がったのです。
この研究は、COVID-19という非常事態が、月を通じて地球の変化を観測する新しい手法の可能性を示しています。
月は私たちの過去と現在を見守る静かな観測者かもしれません。
将来的には、月を利用して地球の環境変化や気候の不安定さをモニタリングする技術が実現するかもしれません。
参考文献:
K Durga Prasad, G Ambily, Effect of COVID-19 global lockdown on our Moon, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letters, Volume 535, Issue 1, November 2024, Pages L18–L25, https://doi.org/10.1093/mnrasl/slae087
