乳がんサバイバーの約30%から50%が不眠症を抱えていると言われています。
これは、治療の副作用や精神的ストレスが関係しているためです。
従来、不眠症に対しては認知行動療法(CBT-I)が効果的とされていますが、専門家との対面治療には制約があり、すべての患者が受けられるわけではありません。
ここで、新たな治療法として注目されているのが、スマートスピーカーを使った音声対応のCBT-Iプログラムです。
スマートスピーカーとは、音声を通じて操作できるデバイスのことです。
AmazonのEchoやAppleのSiriが代表的で、日常生活の中で天気を確認したり、音楽を再生したりするだけでなく、さまざまなアプリやサービスと連携して、健康管理や学習のサポートなどにも活用されています。
このスマートスピーカーを使った治療プログラムでは、ユーザーが「Echo、Faster Asleepを開始して」と話しかけることで、不眠症改善のためのプログラムがスタートします。
プログラムは、睡眠に関するデータや日常的な行動パターン(睡眠時間、カフェイン摂取、運動習慣など)を集め、それに基づいて個別のアドバイスを提供します。
このアプローチは、従来の対面療法のような柔軟な対応を実現し、日々の進捗に応じて適切な調整を行います。
この音声対応のプログラムを検証するため、76名の乳がんサバイバーを対象に6週間の臨床試験が実施されました。
スマートスピーカーを使用したグループと、従来の教育的ウェブサイトを参照するグループに分かれ、それぞれの効果が比較されました。
結果は、以下の通りです。
– 不眠症重症度指数(ISI)の改善
– 音声対応CBT-Iグループは、8.4ポイントの改善を示しました。
– コントロールグループでは、2.6ポイントの改善にとどまりました。
– この結果から、音声対応CBT-Iの有効性が顕著に現れました。
– 具体的な睡眠改善
– 入眠までの時間が平均で8分短縮。
– 途中覚醒後の再入眠までの時間は9分短縮。
– 睡眠の質も0.56ポイント改善しました。
– 睡眠効率は微量ながら改善し、睡眠の質向上が確認されました。
– ユーザー満足度
– スマートスピーカーを使用したグループの85%が、家族や友人にこのプログラムを勧めたいと答えました。
この音声対応CBT-Iプログラムの特筆すべき点は、毎日自宅で実施できる手軽さに加え、個別の睡眠データに基づいて治療が行われる点です。
たとえば、ユーザーが夜間に寝つきが悪い場合、そのデータをもとに次の日に具体的なアドバイスが音声で提供されます。
また、ストレスを緩和するためのリラクゼーションコンテンツも組み込まれており、これによって心身のリラックスを促します。
総じて、この試験結果は、音声対応のCBT-Iが不眠症に効果的であることを示しており、特に治療へのアクセスが難しい人々にとっては、有望な選択肢となるでしょう。
今後、音声技術を活用した医療支援がさらに進化し、より多くの人々が日常生活の中で利用できるようになることが期待されます。
参考文献:
Starling CM, Greenberg D, Lewin D, et al. Voice-Activated Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2024;7(9):e2435011. Published 2024 Sep 3. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.35011
