実は日本だけで約1300万人の方が慢性腎臓病(CKD)に罹患しています。
そして、この病気は、心血管疾患(CVD)を引き起こしやすいことがわかっています。
実際、CKD患者の2/3が心血管疾患に関連して亡くなっているというデータがあります。
この問題に対して、私たちはどのように対処すればよいのでしょうか?
酸化ストレスという言葉を聞いたことがあるかもしれません。
CKDでは、体内の酸化ストレスが高まることが知られており、この酸化ストレスが心血管疾患や腎機能の悪化に関係しています。
そこで注目されているのが抗酸化物質です。
名前からも分かる通り、酸化ストレスを抑える力を持っています。
私たちが普段の食事から摂るビタミンEやβ-カロテン、セレンといった物質がその代表です。
また、サプリメントとしても摂取できるこれらの抗酸化物質が、CKD患者の心臓や腎臓を守ることができるのでは? という疑問が長年議論されています。
最近行われたレビューによると、抗酸化物質の効果はまだ明確ではありません。
95件の研究に基づくデータ(10,468名のCKD患者を対象)によると、抗酸化物質は心血管疾患のリスクをわずかに減らす可能性がある一方、死亡率に対する影響はほとんど見られませんでした。
例えば、抗酸化物質が心血管疾患による死亡リスクに与える影響は、リスク比(RR)で0.94(95%信頼区間[CI], 0.64-1.40)と報告されていますが、この数字は「ほとんど効果がない」と解釈されます。
一方で、CKDの進行を遅らせる可能性があることも示唆されています。
例えば、腎不全のリスクを約35%減少させる可能性がある(RR, 0.65; 95% CI, 0.41-1.02)というデータもあります。
しかし、この効果も全ての患者に当てはまるわけではなく、透析患者や腎移植患者にはあまり効果が見られていません。
抗酸化物質は良いことばかりではありません。
実は、心不全のリスクが増加する可能性がある(RR, 1.40; 95% CI, 1.11-1.76)ことが指摘されています。
また、感染症のリスクも約30%増加する(RR, 1.30; 95% CI, 1.14-1.50)ことがわかっています。
こうしたリスクを考えると、安易に抗酸化物質に頼るのは危険かもしれません。
CKD患者にとって、抗酸化物質は一見魅力的に見える治療法かもしれませんが、その効果やリスクについてはまだ議論の余地が多いのが現状です。
少なくとも現時点では、抗酸化物質が心血管疾患や死亡リスクを劇的に減らすことは期待できません。
それでも、腎機能の悪化を遅らせる可能性があることから、今後の研究に期待が寄せられています。
もちろん、抗酸化物質を試す際には、医師とよく相談することが重要です。
参考文献:
・Colombijn JMT, Vernooij RWM. Antioxidants for Adults With CKD: Editorial Summary of a Cochrane Review. Am J Kidney Dis. Published online July 11, 2024. doi:10.1053/j.ajkd.2023.12.026
・Etemadi A, Chang TI. Revisiting Antioxidants in CKD: Still No Consensus. Am J Kidney Dis. Published online July 10, 2024. doi:10.1053/j.ajkd.2024.06.009