運動が健康に良いことは誰もが知っていることです。
その恩恵が自分自身だけでなく、次世代、さらには孫の世代にまで及ぶ可能性があることが最新のマウス研究で明らかになりました。
これは、日々の運動が家族の未来にまで影響を与えるかもしれないという、驚くべき発見です。
この研究では、マウスの三世代にわたる実験が行われました。
まず、祖父にあたるF0世代のオスのマウスが週5日、1日40分間のトレッドミル運動を6週間続けました。
一方、対照群のマウスは運動を行わず、通常の生活を送りました。
その後、祖父マウスから精子を採取し、体外受精によって次世代(F1世代)を誕生させました。
F1世代とその子孫であるF2世代(孫世代)のマウスたちは、いずれも運動を一切行わずに育てられました。
驚くべきことに、孫世代であるF2世代のマウスたちは、自身が運動を経験していないにもかかわらず、運動をしていた祖父を持つ場合、認知機能が向上していることが確認されました。
具体的には、新奇物体認識テストや場所認識テストといった認知能力を評価する実験で、運動祖父を持つ孫マウスが対照群よりも優れた成績を示しました。
なぜこのような効果が次世代にまで伝わるのでしょうか。
研究チームは、脳内の「神経新生」、すなわち新しい神経細胞の生成に大きな差が見られなかったことから、遺伝的な要因ではなくエピジェネティックな変化が関与していると考えました。
エピジェネティックな変化とは、遺伝子そのものの配列(DNAの並び)が変わらないにもかかわらず、その遺伝子の働き方や表現が変わる現象のことを指します。
簡単に言えば、遺伝子の「設計図」は同じままですが、その設計図のどの部分が「読まれる」かや、どの程度「活発に働く」かが変わるということです。
特に、「マイクロRNA(miRNA)」と呼ばれる微小なRNA分子に着目し、miRNA-144とmiRNA-298という2つの分子が認知機能の向上と密接に関連していることを発見しました。
これらのmiRNAが、運動によるエピジェネティックな情報を次世代に伝達する媒介役を果たしている可能性があります。
しかし、この研究はオスのマウスのみを対象としており、メスのマウスでも同様の効果が見られるかは未解明です。
また、マウスでの結果が人間にもそのまま当てはまるかどうかについても、さらなる研究が必要です。
性差や種差を考慮した追加の研究が期待されています。
この発見は、運動が個人の健康だけでなく、世代を超えて家族の知的能力にも影響を及ぼす可能性を示しています。
私たちが今日行う運動が、未来の家族の幸福につながると考えると、日々の運動にも一層の意義が感じられるのではないでしょうか。
外来でも「自分のため」にはやる気が出ないけれど、子どもや孫のためならという方はたくさんいらっしゃいます。
自分自身と家族の未来のために、今日からでも体を動かしてみませんか。
参考文献:
Cintado E, Tezanos P, De Las Casas M, et al. Grandfathers-to-Grandsons Transgenerational Transmission of Exercise Positive Effects on Cognitive Performance. J Neurosci. 2024;44(23):e2061232024. Published 2024 Jun 5. doi:10.1523/JNEUROSCI.2061-23.2024