患者にとってベッドサイドに医師が座ること

医師や看護師など対人援助職の人間には、参考になるお話です。

例えば、コミュニケーション・スキルとして「患者と同じ目線で接する」を実践したら?というテーマに近いものを感じます。

 

この研究では、医師が患者のそばに座ることで、患者の満足度が大きく向上することが明らかになりました。

日々の診療では、忙しさから座る時間が取れないことが多いですが、実際に座ることでどれだけ患者の印象が変わるのかを検証したものです。

 

51人の医師(平均年齢35歳、男性51%)と125人の患者(平均年齢53歳、男性55%)が参加したこの研究では、椅子の位置を変えた2つのグループを比較しました。

一方のグループでは椅子をベッドのそば(90cm以内)に配置し、もう一方では椅子を通常の場所に置きました。

医師が座るかどうかによって、患者の反応にどのような差が生じるかを調べたのです。

 

主な結果は以下の通りです。

 

座る頻度:椅子がベッドのそばにある場合、医師は63%のケースで座り、遠くに椅子がある場合ではわずか8%でした(オッズ比20.7、P < .001)。

診療時間:面談の平均時間は、椅子の配置にかかわらず約10.6分で、どちらのグループにも大きな差は見られませんでした。

患者満足度:医師が座って診療を行ったグループでは、患者の満足度が約4%高まりました(P = .02)。

情報の質:座って診療した場合、患者の72%が情報提供が良かったと感じました(座っていない場合は52%、P = .03)。

治療への信頼感:座った医師に対しては58%の患者が高い信頼感を持ちました(座らない場合は35%、P = .01)。

 

これらの結果から、医師がただ座るだけで、患者とのコミュニケーションが大きく改善されることがわかります。

診療時間や医師の技術には変わりがなくても、座ることで患者はより安心し、信頼感を持つのです。

研究者たちは、こうしたわずかな環境の違いが、患者のケアに対する認識に大きな影響を与えると結論づけています。

 

医師が忙しい診療中に座る余裕がないと感じることもあるでしょう。

しかし、この研究が示すように、わずかな配慮が患者の満足度や信頼感に大きな違いを生むのですね。

ほんの少しの工夫が、より良い医療体験につながるかもしれません。

  

参考文献:

Iyer R, Park D, Kim J, Newman C, Young A, Sumarsono A. Effect of chair placement on physicians’ behavior and patients’ satisfaction: randomized deception trial. BMJ. 2023 Dec 15;383:e076309. doi: 10.1136/bmj-2023-076309. PMID: 38101923; PMCID: PMC10726223.