年齢を重ねると、呼吸機能や飲み込みの力が弱くなってしまうことはよく知られていますが、日常的に行うことでその機能を改善できる方法があるかもしれません。
その方法が、「舌ブラッシング」です。
福岡県北九州市で行われた研究によると、舌を丁寧にブラッシングすることで、顎の下にある「顎舌骨上筋群」という筋肉の活動が活発になることが分かりました。
この筋肉は、飲み込みや呼吸に深く関わっており、特に呼気(息を吐くこと)において重要な役割を果たします。
この研究には65歳以上の50人の高齢者が参加し、6週間にわたって舌ブラッシングを行うグループと、通常の口腔ケアのみを行うグループに分かれました。
その結果、舌ブラッシングを行ったグループでは、呼気時の筋電活動が約33%も増加しました(介入前: 48.7, 介入後: 64.9)。
一方で、通常の口腔ケアだけではこのような効果は見られませんでした。
さらに、この研究では呼吸機能にも注目しました。
舌ブラッシングを行ったグループでは、強制呼気量(FVC)やピーク呼気流速(PEFR)といった呼吸機能の指標が有意に改善したのです。
例えば、FVCは平均で1.3リットルから1.5リットルへと増加し、呼吸のしやすさが向上したことが示されました。
しかし、舌ブラッシングがすべての筋肉活動に影響を与えるわけではありませんでした。
吸気(息を吸うこと)に関わる筋肉の活動には大きな変化が見られなかったのです。
これは、顎舌骨上筋群の役割が主に息を吐く際に重要であり、息を吸うときには補助的な働きをするに過ぎないためと考えられます。
口腔ケアはもともと大切だという認識でいましたが、健康寿命を延ばすために、舌ブラッシングが常識的なアプローチになるかも知れませんね。
参考文献:
Izumi, M., Sonoki, K. & Akifusa, S. Tongue brushing enhances the myoelectric activity of the suprahyoid muscles in older adults: a six-week randomized controlled trial. Sci Rep 14, 19746 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-70306-9