最近は文献の紹介ばかりで、もう何か月も「勝手にマジシャン・シリーズ」を書いていないことに気づいてしまいました。
しかも、確認してみると、何か月どころか今年は一度も書いていないことに愕然としてしまいました。
これは由々しき事態です(笑)
ということで、今回はドクター・デイリーをご紹介いたします。
前田知洋さんのDVD「スーパークロースアップマジック 奇跡の指先」に、カードを使ったマジックとして最初に収録されているのが「愛情とお金」というマジックです。
その原案となっているのが、ドクター・デイリーの「ラストトリック」なんですね。
考案者のドクター・ジェイコブ・デイリー (1897-1954)は、ドクターというだけあって、本職は整形外科医です。
アマチュアマジシャンでありながら、あの名高い奇術師ダイ・バーノンとも親交が深く、その才能は広く認められていました。
このトリックは、彼の死の直前に発表されたことから「ラストトリック」と呼ばれています。
4枚のエース、つまり2枚の黒エースと2枚の赤エースを使い、黒エースの位置を当てるゲームのように見せかけながら、観客が予想しない形でカードの位置が入れ替わるというものです。
ドクター・デイリーのラストトリックの魅力は、そのシンプルさと意外性にあります。
例えば、観客に2枚の黒エースの位置を尋ねると、実際にはそのカードが赤エースに変わっているという驚きの展開です。
これは、観客の注意を巧妙に誘導し、最後に大きな驚きを提供することで、強い印象を残します。
このトリックは、現代でも多くのマジシャンによって演じられていますが、オリジナルのハンドリングで演じる人は少なくなっています。
現代のマジシャンは、ドクター・デイリーの手順を基にしつつも、より簡略化された方法や、様々なバリエーションで演出することが多いです。
例えば、カードの交換現象だけでなく、モンテという騙しのゲームの要素を取り入れたものや、前田さんのように観客に愛情とお金を象徴するカードを選ばせるというユーモラスな演出もあります。
これにより、トリックそのもののシンプルさを保ちつつ、観客に強い印象を与えることができるわけです。
また、このトリックの歴史も興味深いです。
1956年に発表された当初から、様々なマジシャンが自身の解釈を加え、進化してきました。
特に、ビドル・ムーブやダブルリフトといった技法の使い方に工夫を凝らし、観客の意識を操作する方法が洗練されてきました。
ドクター・デイリーのラストトリックは、単にカードが入れ替わるという現象を超えて、観客の心理を巧妙に操作することが求められる高度なマジックです。
初心者マジシャンにとっても、学ぶべき要素がたくさんつまったトリックかと思います。
動画はネット上でひろってきた、原案に近い方の「ラストトリック」です。