透析を受けている人の炎症反応を抑える

 

IL-6(インターロイキン6)は、私たちの体が感染症や傷害から身を守るために生成されるタンパク質の一つですが、これが過剰になると様々な健康問題を引き起こすことがあります。

特に、心臓病や糖尿病を持つ透析患者にとっては、IL-6の高いレベルがさらにリスクを高めることが知られています。

このため、科学者たちはIL-6の作用を抑える方法を見つけようとしてきました。

今回新たに開発された「クラザキズマブ」は、IL-6と結びついてその活動を妨げる抗体です。

つまり、クラザキズマブはIL-6が引き起こす炎症を減らすことで、心臓病やその他の合併症のリスクを減少させることを狙いとしたのです。

最近行われた研究では、心臓病や糖尿病を持つ透析患者127人が参加し、クラザキズマブがどの程度効果があるかを調査されました。

参加者は4つのグループに分けられ、3つのグループはそれぞれ異なる量のクラザキズマブを、そして、もう1つのグループは偽薬(プラセボ)を投与されました。

試験の主な目的は、治療前後で炎症の指標である「高感度C反応性蛋白(hs-CRP)」の変化を調べることでした。

その結果は、非常に有望といえるものでした。

クラザキズマブを投与されたグループでは、hs-CRPのレベルが86%から92%も減少しました。

これに対し、偽薬を投与されたグループでは逆に19%増加しました。

つまり、クラザキズマブは炎症を大幅に抑えることができたのです。

さらに、クラザキズマブは他の炎症マーカー、例えばフィブリノゲンやアミロイドA、リポ蛋白(a)も減少させました。

これらの数値が減ることは、心臓病などのリスクが下がる可能性があることを意味します。

また、血清アルブミンの濃度が上がるという予期せぬ良い効果も見られました。

アルブミンは体の栄養状態や免疫機能に関わる重要な蛋白質です。

透析患者では、特にアルブミン値が低いと、死亡リスクが高まってしまうことが知られています。

一方で、安全性も重要なポイントです。

試験中に重篤な副作用はほとんど見られず、特に最も高用量のクラザキズマブを投与されたグループで感染症の発生が若干多かったものの、全体としては良好な結果でした。

しかし、これだけではまだ結論を出すには早いです。

長期間にわたる効果や安全性を確認するためには、さらに多くの研究が必要です。

この研究から得られた知見は、特定の患者群において、クラザキズマブが心臓病やその他の炎症関連の合併症のリスクを減少させる可能性があることを示しています。

今後、さらに多くの研究が行われることで、クラザキズマブの使用が一般的な治療選択肢となる日も近いかもしれません。

 

元論文:

Chertow, G.M., Chang, A.M., Felker, G.M. et al. IL-6 inhibition with clazakizumab in patients receiving maintenance dialysis: a randomized phase 2b trial. Nat Med (2024). https://doi.org/10.1038/s41591-024-03043-1