これまでにないメカニズムで作用する新しい抗生物質「ロラマイシン」が、最近の論文で紹介されていました。
この薬の最大の特徴は「ダブルセレクティブ」と呼ばれる二重選択性にあります。
ロラマイシンは問題となる病原菌だけを標的とし、腸内の有益な細菌には影響を与えません。
つまり、抗生物質の使用によって起こる腸内細菌のバランス崩壊を防ぐことができます。
具体的には、ロラマイシンはグラム陰性菌と呼ばれる特定の病原菌に対して効果を発揮します。
グラム陰性桿菌は、食中毒、尿路感染症、肺炎、敗血症、コレラなどの原因となることがあり、非常に厄介な細菌です。
さらに、これらの病原菌はしばしば薬剤耐性を持ち、治療が困難な場合が多いのです。
ロラマイシンのメカニズムは、グラム陰性菌が持つ「Lolシステム」と呼ばれる脂質タンパク質輸送システムを妨害することにあります。
これによって、病原性のグラム陰性菌を効果的に攻撃しつつ、腸内の有益なグラム陰性菌やグラム陽性菌には影響を与えないということを可能にしました。
実際の研究では、ロラマイシンが130種類の抗生物質耐性グラム陰性菌に対して効果を示し、マウスの薬剤耐性血流感染症や肺炎を治療しながら、腸内細菌叢を守ることに成功しています。
腸内細菌叢が守られるのは、重要な意味があります。
抗生物質によって腸内の有益な細菌叢が破壊されると、Clostridioides difficileという菌が繁殖し、二次感染として偽膜性腸炎を引き起こしてしまうのです。
ロラマイシンのもう一つの魅力は、細菌の新しい標的を攻撃することです。
多くの抗生物質は既存の薬の改良版ですが、ロラマイシンはまったく新しい標的を攻撃します。
これが、今後の抗生物質開発に大きな貢献をする可能性があります。
ただし、ロラマイシンには耐性が発生しやすいという欠点があります。
これを克服するために、さらに研究が必要です。
将来的には、ロラマイシンを他の抗生物質と組み合わせたり、新たなLolシステム攻撃薬を開発するための基礎として利用したりすることが期待されています。
薬の市場投入には長い時間がかかりますが、今後の研究に期待が寄せられているところです。
元論文:
Muñoz KA, Ulrich RJ, Vasan AK, et al. A Gram-negative-selective antibiotic that spares the gut microbiome. Nature. Published online May 29, 2024. doi:10.1038/s41586-024-07502-0
