パンデミックの間、私たちの日常はマスクが普通でした。
そこで、考えたことはありませんか?
マスクで下半分を隠した顔を、私たちはどれだけ識別しているのだろうかと。
それに対するのは顔の上半分を隠したサングラスですね。
サングラスとマスクが顔識別にどのような影響を与えるかについて調べた研究があります。
まず、サングラスを装着した場合、顔識別の感度が大幅に低下することがわかりました。
これは、顔の上部、特に目の領域が顔全体の識別にとって非常に重要であることを示しています。
実際に、目の周りの特徴は顔識別の際に多くの情報を提供しているため、サングラスでその部分が隠されると、識別が難しくなるのです。
一方、マスクを装着した場合の影響はサングラスほど大きくありませんでした。
マスクは鼻や口、あごといった顔の下部を隠しますが、これらの部分は目の周りほど識別に重要ではないようです。
ただし、学習時とテスト時でマスクの装着状況が一致しない場合、識別の感度は低下しました。
これは、学習時に見た顔とテスト時に見た顔が一致している方が、記憶の再生が容易であるためです。
さらに、マスクを装着した場合、テスト時に見た顔を「見たことがある」と誤認する傾向が強くなることもわかりました。
この現象は「リベラルバイアス」と呼ばれ、マスクによって顔全体が見えないため、脳が見覚えがあると誤って判断しやすくなることが原因です。
この研究はシンガポールで行われ、中国系シンガポール人を対象に実施されました。
被験者は、学習とテストの顔の覆い方が一致する場合(例:学習時とテスト時の両方でサングラスを装着)と、学習時のみ覆いがある場合(例:学習時にマスク、テスト時に素顔)、テスト時のみ覆いがある場合の3つの条件で実験が行われました。
結果として、学習時とテスト時の条件が一致する場合、顔識別の感度が最も高くなりました。
この研究は、顔識別において目の領域がいかに重要であるかを示すとともに、学習時とテスト時の条件が一致することの重要性を強調しています。
日常生活でマスクやサングラスを使う機会が増えていると、この知見は私たちが顔を認識する仕組みを理解する上で非常に有益です。
今後、顔認識技術や防犯対策の分野での応用が期待されるでしょう。
このように、私たちが普段何気なく使っているサングラスやマスクが、実際には顔識別能力に大きな影響を与えていることが分かりました。
特に目の周りの情報が重要であり、その部分を隠すことで識別が困難になることが明らかになったのです。
今後、これらの研究結果がどのように活用されるのか、引き続き注目していきたいところです。
元論文:
Or CC, Ng KYJ, Chia Y, Koh JH, Lim DY, Lee ALF. Face masks are less effective than sunglasses in masking face identity. Sci Rep. 2023;13(1):4284. Published 2023 Mar 15. doi:10.1038/s41598-023-31321-4
