アルコールの摂取が健康に与える影響は重大で、毎年多くの人がアルコール関連の疾患で命を落としています。
特に、アルコールが体内で分解される過程で生成されるアセトアルデヒドは、毒性が高く、二日酔いや慢性的な健康問題を引き起こします。
この問題に対処するためには、効率的で安定した解毒方法が求められていました。
そこで、本研究では、β-ラクトグロブリンという牛乳に含まれるタンパク質を使用して、特殊なナノ酵素ハイドロゲルを開発しました。
このナノ酵素は、単一の鉄原子を固定化することで、ホースラディッシュペルオキシダーゼという天然酵素の働きを模倣します。
具体的には、このナノ酵素はアルコールを酢酸に変える働きを持ちますが、問題となるアセトアルデヒドを生成しないという優れた特徴があります。
実験では、アルコールを摂取したマウスにこのナノ酵素ハイドロゲルを経口投与しました。
その結果、マウスの血中アルコール濃度は300分後には55.8%も減少し、アセトアルデヒドの蓄積も見られませんでした。

さらに、このナノ酵素ハイドロゲルは肝臓を保護し、アルコール摂取による腸内の損傷や腸内細菌の乱れも軽減する効果が確認されました。
この研究の意義は、アルコール解毒のための新しい方法を提供するだけでなく、健康被害を最小限に抑える可能性を示したことです。
これまでの方法では、天然酵素を用いた解毒が主流でしたが、高コストで安定性に欠けるという問題がありました。
一方、このナノ酵素ハイドロゲルは安定しており、保存も簡単であるため、実用的な解毒剤としての可能性が非常に高いのです。
この技術は、将来的には人間への応用も期待されています。
アルコール中毒や慢性的なアルコール摂取による健康問題に対する新しい治療法として、大きな進展をもたらすかもしれません。
さらに、肝臓への負担を軽減しながらアルコールを解毒することで、より安全で効果的な方法が提供されることになります。
将来的に、この技術がどのように活用されるか、大いに期待が寄せられています。
元論文:
Su J, Wang P, Zhou W, et al. Single-site iron-anchored amyloid hydrogels as catalytic platforms for alcohol detoxification. Nat Nanotechnol. Published online May 13, 2024. doi:10.1038/s41565-024-01657-7
