筋肉は私たちの身体で非常に大切な役割を果たしていますが、加齢に伴い筋肉量が減少し、筋力が低下してしまうことがあります。
これを「サルコペニア」と呼びます。
サルコペニアは高齢者の生活の質を大きく下げる要因となり、転倒や障害のリスクを高めます。
最近の研究では、サルコペニアの発生と「鉄の代謝」が深く関連していることが明らかになってきました。
鉄は身体で多くの重要な機能を担っています。
例えば、赤血球の中で酸素を運ぶヘモグロビンの成分となるほか、エネルギー産生の過程にも関与しています。
しかし、鉄の不足や過剰は、身体に様々な問題を引き起こす可能性があります。
特に筋肉においては、鉄のバランスが崩れると筋肉の量や機能に悪影響を及ぼすことが知られています。
この背景から、中国の研究チームが行った興味深い研究について紹介します。
この研究では、鉄の状態がサルコペニアのリスクにどのように影響するかを調査しました。
具体的には、2019年から2021年にかけて、286人の入院患者を対象に調査を行いました。
その結果、サルコペニアと診断された117人は、鉄の値が健康な人たちと比べて顕著に低いことが判明しました。
研究チームは、血清鉄、総鉄結合能(TIBC)、トランスフェリンという三つの指標を使用して鉄の状態を評価しました。
これらの値が低いと、握力や骨格筋の指数が低く、様々な身体機能テストで悪い結果が出ることが分かりました。
これにより、これらの鉄の指標がサルコペニアの予測因子として有用である可能性が示されました。
さらに、この研究で特に注目すべき点は、性別、年齢、体格指数(BMI)と共に、血清鉄の値もサルコペニアの独立したリスク因子であることが明らかになったことです。
血清鉄値が特定の基準値以下であると、サルコペニアのリスクが高まることが分かりました。
具体的には、血清鉄が10.95ミクロモル/リットル未満の場合、サルコペニアの可能性が高くなります。
これらの結果から、鉄の状態を適切に管理することが、高齢者の健康維持に非常に重要であると言えます。
サルコペニアの予防や管理においては、鉄の補給やバランスの取り方に注意を払う必要があります。
今後も、鉄と筋肉の関連についてさらに研究が進むことで、より効果的な予防策や治療法が開発されることを期待しています。
元論文:
Baek JY, Jang IY, Jung HW, et al. Serum irisin level is independent of sarcopenia and related muscle parameters in older adults. Exp Gerontol. 2022;162:111744. doi:10.1016/j.exger.2022.111744
