スマホを持ち込むのは、認知タスクのプラスになる?意外な結果

 

スマートフォンは、今や私たちの日常生活に欠かせない存在です。

しかし、この便利なデバイスが私たちの認知機能に与える影響について、研究者たちはまだ完全には解明できていません。

最近の研究では、スマートフォンが「作業記憶」や「視覚的注意」にどのような影響を及ぼすかが調査されています。

この研究の結果は、私たちがスマートフォンをどのように使用すべきか、またその使用をどう制限すべきかについて、重要な示唆を与えてくれます。

研究では、スマートフォンが机の上にある場合と、バッグの中にある場合、そして全く持っていない場合とで、参加者の作業記憶容量がどのように変化するかを調べました。

その結果、スマートフォンが近くにあると、ない場合に比べて、作業記憶のスコアが低下することが明らかになりました。

この結果は、予想範囲内とも言えます。

これは、スマートフォンがあることによって、注意力が散漫になる可能性があることを示唆しています。

さらに、この研究はNavonタスクを用いて「視覚的注意」の制御を分析しました。

Navonタスクというのは、以下のような図を使用します。

小さな文字を並べて大きな一文字を形作り、その識別を求めるものです。

大局的に認識する場合と、その中の小さな文字を認識する場合とで、注意の焦点をシフトする必要があり、やってみたらわかるのですが、わりと集中力を要するタスクです。

36人の成人が参加し、スマートフォンがある状態とない状態でタスクに取り組んでもらいました

そこで、興味深いことに、スマートフォンが存在する方が反応時間が短くなるという結果が出たのです。

ただし、正確性の面では大きな違いは見られませんでした。

研究者たちは、スマートフォンの存在が参加者に中心的な視点で集中するよう促し、そうすることで注意力が高まり、反応が速くなったのではないかと考えています。

これは、いわゆる「背景効果」と呼ばれるもので、周囲の環境や背景に一定の注意を払うことで、実際に中心的なタスクに集中しやすくなる心理学的効果を指します。

ちなみに、この研究ではスマートフォンと同じサイズと重さのモバイルバッテリーを対照として使用しています。

そして、モバイルバッテリーの場合には、そのような反応速度の改善は見られませんでした。

この結果から、スマートフォンの存在が何らかの特別な心理的または認知的効果を持つ可能性が示唆されます。

スマートフォンはただの物理的な存在以上のもの、つまり、私たちの心理状態や認知プロセスに影響を与える何かを持っている可能性があるわけです。

さらに、この研究では、スマートフォンへの依存度との関連も検証されました。

スマートフォン依存度スケールによって測定された依存度が高い参加者は、タスクの精度が低下する傾向にありましたが、これはスマートフォンが物理的に存在するかどうかには影響されないことが示されました。

これは、「スマートフォン依存」を有する人の行動特性として、認知パフォーマンスに影響を与える可能性があることを意味するようです。

この研究はスマートフォンが常に邪魔になるわけではないことを示唆していますが、反応時間が改善されたとしても、それが常に効率的な認知活動につながるわけではないことを理解することが重要です。

また、スマートフォンの影響は個々の認知能力やタスクの性質によって異なる可能性があります。

このため、一概に「スマートフォンは仕事場から排除すべき」とするよりも、どのようにしてスマートフォンを効果的に活用するか、そのバランスを考えることが求められます。

最終的に、この研究はスマートフォンの存在が認知に与える影響について新たな視点を提供しており、今後の研究でさらに詳細が明らかになることが期待されます。

職場でのスマートフォンの扱い方を再考する良い機会かもしれませんね。

この手の研究が導く結論は、常に「便利なものには一長一短があるから、どう扱うかを考えよう」ということになりますね。

 

元論文:

Liu W, Kawashima T, Shinohara K. Effects of cell phone presence on the control of visual attention during the Navon task. BMC Psychol. 2023;11(1):334. Published 2023 Oct 12. doi:10.1186/s40359-023-01381-2