「鶴は千年、亀は萬年」というように、カメは長寿の象徴として扱われています。
約2億年前、恐竜が地球を歩き、空を支配していた時代に、カメはその姿を現しました。
それは、現代に至るまで続いています。
カメの平均寿命は約100歳とされ、中には190歳を超える個体もいることは、科学界にとって長らくの謎でした。
しかし、最近の研究により、この長寿の秘密が少しずつ明らかになりつつあります。
カメの長寿の一つの鍵は、加齢による死亡率の上昇がほとんど見られないという事実にあります。
人間のように年を取るごとに死亡率が高くなるのが自然な現象とされていますが、カメにおいてはこの法則が当てはまりません。
南デンマーク大学の研究では、52種のカメを調査した結果、約75%の種で加齢による死亡率の上昇がほとんどないことが確認されました。
これは、5歳のカメも50歳のカメも、死亡率がほぼ変わらないことを意味します。
では、なぜカメは老化しないのでしょうか?
カメが変温動物であることが、この謎を解く手がかりの一つです。
外気温に合わせて体温が変化するため、エネルギーを体温維持に使う必要がなく、その分細胞の修復にエネルギーを向けることができます。
また、代謝が低いため、無駄なエネルギー消費を避けることができるのです。
ペンシルベニア州立大学の研究では、熱い地域に住む爬虫類は老化速度が速く、逆に両生類は老化速度が遅いことが示されました。
性的成熟が遅い動物は長寿で、早い動物は短命であるという結果も出ていますが、カメがなぜ他の変温動物よりも長寿なのかは、まだ完全には解明されていません。
カメの長寿には、その生存戦略も関係しています。
硬い甲羅は、外敵からの保護という強力な盾となります。
例えば、キツネに襲われたカメとうさぎでは、うさぎの方が遥かに死亡率が高くなります。
カメはその甲羅によって、捕食者からの脅威を大幅に減らすことができるのです。
このように、カメの長寿の秘密は、その生物学的特性と生存戦略の組み合わせによるものと考えられます。
しかし、これらの発見は、カメの長寿に関する謎をすべて解き明かしたわけではありません。
カメが長寿である理由を完全に理解するためには、さらなる研究が必要です。
カメの生命の秘密は、科学者たちにとってまだまだ多くの謎を秘めています。
そして、私たち人間にとっても、カメから学ぶべきことは多いのかもしれません。
長寿の秘訣を探るこの旅は、まだまだ続きます。
元論文:
Reinke BA, Cayuela H, Janzen FJ, et al. Diverse aging rates in ectothermic tetrapods provide insights for the evolution of aging and longevity. Science. 2022;376(6600):1459-1466. doi:10.1126/science.abm0151
