「ソクラテスの死」

 

哲学の基礎を築いたソクラテスは、多くの質問を投げかけることで人々から恐れられていました。

それは彼が全ての答えを持っているからではなく、逆に多くの問いを投げかけていたからです。

彼は形式的な講義よりも、友人や見知らぬ人と道徳や社会についての対話を好みました。

これらは討論でもなければ、ソクラテスが具体的な助言を提供するものでもありませんでした。

実際、「無知の知」で知られているように、ソクラテスは自分は何も知らないと主張し、対話者の言葉にさらに質問を返すだけだったのです。

この「ソクラテス式問答法」によって、彼らの論理の欠陥を明らかにし、両者がより強固な理解に達するのを助けたのでした。

この方法は、彼の教え子であるプラトンやクセノポンのような後継の哲学者に好まれました。

人々がまだ検討していない前提を引き出すことができましたし、また、それらの偏見に挑戦する方法でもありました。

特に、矛盾や循環的な論理を排除するのに役立ったのです。

但し、ちょっと実際に試みたらわかるように、この方法は教育者の能力と人格に大いに依存するものす。

効果的なソクラテス型教育者は自分の主題に精通していることが求められますし、自分の知識を誇示するのではなく、本当に好奇心を持って学生の貢献を肯定していかなければなりません。

そして、この方法が、臨床医学の教育に導入されたのは、当然のなりゆきでした。医学生が異なる診断に対する理論を提出し、指導医がその前提を問いなおし、議論を進めるのです。

これはルネサンス時代から続く医学教育の伝統となりました。

さて、「ソクラテスの死」という絵画があります。そこには、ソクラテスが死の床にあっても、終わりなき探求の旅に向けて好奇心を持つ哲学者として描かれています。

絵の中央には白いローブを着たソクラテスがベッドにまっすぐに座り、その右手をカップに伸ばし、左手は身振りを示しています。

その姿は、彼の「問いかける力」を最高に象徴するものと思います。

 

 

David - The Death of Socrates