「三界の狂人、四生の盲者」

 

空海の「秘蔵宝論」(ひぞうほうやく)の序論の末尾の一節です。

 

三界の狂人は狂せることを知らず

四生の盲者は盲なることを識らず

生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに

暗く死に死に死に死んで死の終りに冥し

 

「三界」とは仏教の言葉で、日本大百科全書(ニッポニカ)を参照すると、こんな説明があります。

「仏教の世界観で、生きとし生けるものが生死流転する、苦しみ多き迷いの生存領域を、(1)欲界(よくかい)、(2)色界(しきかい)、(3)無色界(むしきかい)の3種に分類したものをいう。」

言い換えると「衆生が生死を繰り返しながら輪廻する世界をその三つに分けたもの」(Wikipedia)です。

「三界の狂人は狂せることを知らず」とは、凡夫が生死を繰り返しながら輪廻する3つの世界、この迷いの世界に狂える人はその狂っていることを知らないと言う意味になります。

「四生」とは、胎生(母胎から生まれた生き物)、卵生(卵の形で生まれた生き物)、湿生(湿気のある場所から生まれた虫などの生き物)、化生(過去からの業の力によって生まれた生き物)を言います。

「四生の盲者は盲なることを識らず」とは、この世に生まれてくるすべての者は、自分が何も見えていない者であることがわからないと言う意味です。

その後に「何度も何度も生まれてくるのだが、生まれてくるときにすでに何が真理であるかを知らないで生まれてくる。何度も何度も死んでいくのだが、死ぬまでに、真理に目覚めることがないまま死んでいく。」と続きます。

何もわからずにただ生きているヒトの愚かさを出発点として、空海の思索が進んでいきます。