「蒸発現象」

 

トンネルに入る前は、外の日差しで明るい環境です。そんな明るい場所から暗いトンネルに入ると、目の前が真っ暗になります。

逆に、長い暗いトンネルを通り抜けると、周囲の景色が光一面に塗りつぶされてしまいます。目の前の自動車もその光の中に突然消えてしまうかも知れません。

トンネルに入る前と後では、光の量はたいして違いはないはずですが、トンネルの暗さを知った分だけ通り抜けた時の光の量は何倍にも感じるものです。

暗い時期を自力で何かを成し遂げた人の喜びは、暗いトンネルを通り抜けたあの感覚に似ているようにも思います。

長く暗い道のりは、誰かに甘えや依頼心があったりすると、とにかく辛いものです。道のりが辛いだけではなくて、誰かに甘えられないという、その状況がよけいに辛く思えてきます。

けれども、とにかく自分で進むんだという覚悟が固まると、清々しいものです。そういう自分の境遇をニヤリと笑うことも、格好をつけて、あえてやってみたくなります。

ちなみにトンネルを通り抜けた時の前の自動車が消失して見失うことを「蒸発現象」と言うそうです。

「蒸発」という言葉が、自分の甘えを捨て切った状況を表現しているようで、私は好きです。