宮沢賢治の「やまなし」という童話は、とても不思議なお話です。
青空文庫で読むことができます。
こんな出だしです。
二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話していました。
『クラムボンはわらったよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
『クラムボンは跳ねてわらったよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
上の方や横の方は、青くくらく鋼のように見えます。そのなめらかな天井を、つぶつぶ暗い泡が流れて行きます。
クラムボンとは何なのか。答えがない分だけ想像力がいきなり試されます。
そして、こんなふうに続きます。
つうと銀のいろの腹をひるがえして、一疋の魚が頭の上を過ぎて行きました。
『クラムボンは死んだよ。』
『クラムボンは殺されたよ。』
『クラムボンは死んでしまったよ………。』
『殺されたよ。』
登場人物は蟹の兄弟と父親。母親は登場しません。母親はすでに亡くなっているという解釈もできます。ですから、クラブボンとはこの子達の母親であるという説もあります。
川の底で兄弟達は時に無情な自然界の様子を目の当たりにします。自由に泳いでいた魚が、空中から降下してきたカワセミに食べられました。兄弟達は恐怖のあまり震えあがるのでした。
季節が移り、いい匂いのする「やまなし」が川に落ちてきました。兄弟達と父親はその果実を追いかけていきます。
生命が循環する自然の姿が、川の中で織りなされていきます。
いったいクラムボンとは、何なのか。それに思いを巡らせながら、童話の中に引き込まれていきます。