ロバート・A・ハインラインの名作です。
いわゆるタイムトラベルものですが、「輪廻の蛇」とは違って1回のジャンプで済んでいますし、話を追う読者としては理解が難しいということはありません。
最近は、タイムリープを扱うと「親殺しのパラドックス」を回避するために、もっぱら「多世界解釈(パラレルワールド)」が主流ですが、話が面白いのは断然にこっち側「夏への扉」、つまり「バックトゥザフューチャー」型のストーリーだと思います。
タイムパラドックスを意識しはじめたら、頭がこんがらがってしまいますね。パラドックスというのは、それがなぜパラドックスなのかを理解しなければなりませんから、正直面倒くさくて疲れます。
タイムトラベルものは、大きく4つのパターンがあると言われています。
1)矛盾が発生したら(例えば同じ人間が遭遇したりすると)世界全体が消滅する
2)時間旅行者が、どんな手段を使っても、何度繰り返しても、目的を遂行できない。
3)多少細部が変更されても、現在の状態に辻褄を合わせた流れになる
4)パラレルワールドが元の世界から分岐して出現する。
この「夏への扉」は、時代的にも、そういうややこしさを逃れた作品なのかも知れません。
ですから純粋にストーリーを楽しむことができますし、読者が矛盾点を目くじら立てて指摘する必要もありません。
「こんなことがあったらいいな」というファンタジーの本質そのものの作品なのだと思います。実際、この作品のキーワードは3つ。「冷凍睡眠」「ロボット」「タイムマシン」です。
「古典SF」なんていう表現は、決して古臭いイメージを塗り付けたいからではなく、ロックでいえばクラシック・ロック、ジャズで言えばスタンダードの意味合いになります。
「読まずに死ねるか!」というタイトルの本がありましたが、まだ未読の方はぜひ読んでいただきたいです。