今日紹介するのは「吹く風を心の友と」というタイトルの中原中也の詩です。
未刊行のため本来はタイトルのない詩らしくて、通称としての(吹く風を心の友と)が定着しているようです。
十五の春を思い出す作者が、とにかくそこへゆけたらなあという思いを胸にしていることが共感を呼ぶからでしょうか。中原中也の詩の中でも人気がある詩のようです。
最後の4行が特に郷愁の念を強く抱かせます。体験は違えども、万人に共通する思いなのではないでしょうか。
(吹く風を心の友と)
吹く風を心の友と
口笛に心まぎらわし
私がげんげ田を歩いていた十五の春は
煙のように、野羊(やぎ)のように、パルプのように、
とんで行って、もう今頃は、
どこか遠い別の世界で花咲いているであろうか
耳を澄ますと
げんげの色のようにはじらいながら遠くに聞こえる
あれは、十五の春の遠い音信なのだろうか
滲むように、日が暮れても空のどこかに
あの日の昼のままに
あの時が、あの時の物音が経過しつつあるように思われる
それが何処(どこ)か?―とにかく僕に其処(そこ)へゆけたらなあ……
心一杯に懺悔(ざんげ)して、
恕(ゆる)されたという気持の中に、再び生きて、
僕は努力家になろうと思うんだ―