ジャータカ物語「キンスカの木」

 

ジャータカ物語から「キンスカの木」というお話を紹介します。

ジャータカ物語というのは、釈迦の前世の姿を物語る、インドの古い仏教説話です。

 

昔むかし、お釈迦様がベナレスの国王に生まれてきたときのお話しです。

国王には四人の王子がいました。

あるとき、王子達が集まって話をしているうちに、キンスカという木の話になりました。

王子たちは誰もその木を見たことがありません。そこで、森の番人にたのみました。

「森の奥にキンスカという珍しい木があるそうだね。私たちを、そこに案内してくれないか」

「よろしゅうございます。けれども、この車は私のほかに一人しか乗れません。私は多忙でもありますので、都合のつくときに一人ずつお連れすることにいたします。」

一番年上の王子が森の番人に連れて行ってもらったとき、キンスカの木はちょうど芽ぶいているころでした。

二番目の王子が行ったときには、若葉が風にそよいでいました。

三番目の王子は、まっ白な大輪の花が咲いているころに行きました。

末の王子は黒い実がいっぱいたれさがったキンスカの木を見ました。

その後、四人の王子達が集まってキンスカの木について語り合いました。

しかし、まったく話がかみあいません。

だれも自分の意見をゆずらず、まるでけんかのようになったとき、それまでだまって聞いていた国王が口をひらきました。

「お前たちが見たのは、同じキンスカの木だ。だが、時期によって木はすがたをかえる。

ほかのときにキンスカの木はどんな様子なのか、どうして森の番人にたずねなかったのだ?

目の前のことしか見ていないと、部分的なことしかわからず、全体のすがたは見えてこない。

これはキンスカにかぎらず、すべてについていえることだ。それがものごとを正しく見るということなのだよ。」

 

国王がすべてのことについて言えると指摘したように、世の中の全てが絶えずその姿を変化させています。

「変化し続けることだけが変わらない」などと、ちょっと斜めのセリフがあるぐらいです。

当然と思っていたことや常識だと信じていたことが、時代とともに変わっていくというのは、今までにもよく経験してきたことです。

変わった時にうろたえないように、腹の括り方は準備していた方が良いですね。