詩「昨日はどこにもありません」

 

詩人 三好達治の「昨日はどこにもありません」

 

山崎まさよしの「One more time, One more chance」はストレートに「君の姿」を探し回っていますが、この詩は真逆です。

 

むしろ、愛する者への思慕をあえて抑え込もうとして、けれども、どうしてもその人の痕跡を見つけてしまい、その姿が自分の心の表面に浮かび上がってきてしまう…。その切なさが胸をつまらせます。

 

叙情的な詩で、気持ちがわかるだけに苦手な人は苦手かも知れません。

 

 

昨日はどこにもありません

 

三好 達治

 

昨日はどこにもありません

あちらの箪笥のひき出しにも 

こちらの机の引き出しにも 

昨日はどこにもありません

 

それは昨日の写真でしょうか 

そこにあなたの立っている 

そこにあなたの笑っている 

それは昨日の写真でしょうか

 

いいえ昨日はありません 

今日を打つのは今日の時計 

昨日の時計はありません 

今日を打つのは今日の時計

 

昨日はどこにもありません 

昨日の部屋はありません 

それは今日の窓掛けです 

それは今日のスリッパです

 

今日悲しいのは今日のこと 

昨日のことではありません 

昨日はどこにもありません 

今日悲しいのは今日のこと

 

いいえ悲しくはありません 

何で悲しいものでしょう 

昨日はどこにもありません 

何が悲しいものですか

 

昨日はどこにもありません 

そこにあなたの立っていた 

そこにあなたの笑っていた 

昨日はどこにもありません