小説「いのちの初夜」

 

 

著者の北条民雄は1914年生まれ。

若くしてハンセン病を患った北条民雄は、絶望を抱え、半ば強制的に収容施設に入所させられます。

自分の運命を呪い、一度は自殺すら考えた絶望の淵から救い出したのは、文学に対する止めどない情熱でした

収容施設内より川端康成に師事し、1936年この「いのちの初夜」を『文學界』に発表し、大きな反響を呼ぶことになったそうです。若くして腸結核にて死去。享年23歳。

この「いのちの初夜」は、施設入所初日のできごとを綴った私小説で、青空文庫に新仮名遣いで読めますから、おすすめです。

 

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「いのちの初夜」

 

主人公の「尾田」と、当直をしている「佐柄木」との会話は、特に心に残るものでした。

 

 

「尾田さん、僕には、あなたの気持が良く解る気がします。昼間お話しましたが、僕がここへ来たのは五年前です。五年以前のその時の僕の気持を、いや、それ以上の苦悩を、あなたは今味わっていられるのです。ほんとにあなたの気持、良く、解ります。でも、尾田さんきっと生きられますよ。きっと生きる道はありますよ。どこまで行っても人生にはきっと抜け道があると思うのです。もっともっと自己に対して、自らの生命に対して謙虚になりましょう」

 (略)

「とにかく、癩病に成りきることが何より大切だと思います」

と言った。不敵な面魂が、その短い言葉に覗かれた。

「まだ入院されたばかりのあなたに大変無慈悲な言葉かもしれません。今の言葉。でも同情するよりは、同情のある慰めよりは、あなたにとっても良いと思うのです。実際、同情ほど愛情から遠いものはありませんからね。それに、こんな潰れかけた同病者の僕がいったいどう慰めたら良いのです。慰めのすぐそこから嘘がばれて行くに定まっているじゃありませんか」

 

 

「同情ほど愛情から遠いものはない」という言葉は、どこかで聞いたことがあります。この本からの出典だったのかと、気づきました。