「ものぐさハインツ」

 

グリム童話には、ちょっと思い出しただけでも「カエルの王様」「狼と7匹の子やぎ」「ヘンゼルとグレーテル」「赤ずきん」「シンデレラ」など、よく知られた作品がたくさんあって、知らない話はないんじゃないかと思うほどです。

それほど、昔から親しまれてきた童話集ですが、全集をパラパラとめくってみるとやはりあまり馴染みのないお話もあって、新たな発見をした気持ちになってアガります。

たとえば、次に紹介する「ものぐさハインツ」

タイトルからして日本に伝わる「ものぐさ太郎」に似ていますが、内容はまったく違うものです。

 

 

「ものぐさハインツ」

 

ハインツは大変なものぐさで、一日の仕事がたった一頭のヤギを草場に追いやって連れ帰ることしかなかったのに、それさえもイヤで仕方がなかった。そこで考えた解決策が近所に住んでいるトゥリーネと結婚することだった。というのも彼女もヤギを一頭もっているので、彼女と結婚すれば、彼女がヤギを連れて行く時に自分のヤギも一緒に連れて行ってくれればいい、というわけで、さっそくトゥリーネに結婚を申し込んだ。

しかし、このトゥリーネもハインツに決して負けないほどのものぐさだった。

最初はトゥリーネがヤギ二頭を草場に追っていたが、彼女はヤギを追っていくのは面倒だから、ヤギをミツバチと交換してはどうかと提案した。

ハインツはトゥリーネの提案に従い、隣人のところに行き、ヤギとミツバチを交換した。たしかに、夫婦が昼間から寝っ転がっている間に、ミツバチはせっせと蜜を集めてくれた。

秋になるとハインツ夫婦は壺いっぱいの蜂蜜を収穫した。彼らは大喜びでベッドの上に作らせた棚の上に置いた。

しかし、ハインツは甘いもの好きのトゥリーネが一人で蜂蜜を食べ尽くしてしまうことを心配した。そこでハインツはトゥリーネに、蜂蜜とガチョウの親子を交換しようと提案した。

トゥリーネは自分がガチョウの番をするのがイヤだから、子どもを産んでその子がガチョウの番ができるまではダメだと反対した。

ハインツは「今どきの子どもは親の言うことなんか聞かない」と反論した。トゥリーネはそんな親の言うことを聞かない子どもは、こうしてやればいいと興奮して棒を振り回しているうちに、大切な蜂蜜の入った壺をたたき落としてしまった。

壊れた壺からほとんどこぼれてしまった蜂蜜を見て、ハインツは「壺がおれの頭の上に落っこちなかったのは幸せだよ。何事も運だとあきらめなきゃいけないもんだ」そして、壺の縁に蜂蜜が少し残っているのを見て「残りかすの蜂蜜はなめられる。二人でごちそうになろう。それから、びっくりしたから、しばらくゆっくり休むことにしよう」と言った。トゥリーネも喜んで同意して、こんな話をした。

「カタツムリが結婚式に招待されたが、あまりゆっくりだったので、会場に着いた頃には、もう子どもが生まれ洗礼式をやっていた。それでも、カタツムリは垣根からころがり落ちながら『急いてはことをしそんじる』と言った。」

 

 

ここまで徹底していれば、「ものぐさ」もアッパレなお話です。しかし、このお話の後半は、ものぐさであることよりも、無欲で世の中を達観した夫婦の生き方が教訓的です。

このハインツ夫婦は、十分に幸せだと思うのです。

どこかに「失ったものを数えるな。残っているものを数えよ」という言葉があったと記憶しているのですが、西洋に「運命の享受」を伝えるお話があることが面白いと思いました。

どことなく東洋的な考えのように思っていましたから。