「痛いのだけ何とかしてくれ」

 

「蛇足かも知れませんけど、血圧が高いですよね?」

足が痛いので受診したという男性に言いました。数日前から足の親指の付け根が痛くなったというその男性は、診察室にびっこをひきながら入ってきました。

「いや、今日はいいです。痛いのを何とかしてください。」

「え?そうですか…」

「去年、ほかの病院で薬を飲まされたんですけど、フラフラしたので2、3回飲んでやめました。」

「その後は病院に行かなかったのですか?」

「薬飲んだらホントに病気になってしまうと思ったので行きませんでした。」

実はこういう方は意外に多いです。病気はできるだけ遠ざけるにこしたことはないし、変に医者にかかったりしたら病気にされてしまうと思い込んでいるようです。

こういう方は、多くが特徴的に「薬を飲まされた」という表現をします。

そう言えば、もう何年も前から糖尿病の治療をしているはずの患者さんから「私って糖尿病なんですか?」という質問をされた時にも、びっくりしました。

先の男性のように、痛いのは体のサインとして表れてきますから本人が理解し、判断します。

けれども、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの病気は、自分の体のことなのに判断を医者など第三者にゆだねるものです。

ですから「痛いのだけ何とかしてくれ」ということになるのですね。無理に説得しようものなら「薬を飲まされた」「病気にさせられた」ということになるのでしょう。

私たち医療者は、その人が「病気を受容しているか」「引き受けているか」ということに関して、特に注意を払います。

「病気になる」よりも「病気を引き受けているか」で、前に進み方が全く違ってくるからです。